しばしば歯周炎に抗カンジダ薬(抗真菌薬)が有効という話題・記事が流れますが、アレはデマです。
どちらかというとカンチガイであるといったほうが正確かもしれません。その背景にはなかなか治らない歯周炎に対して、できるだけのことをしようと試行錯誤した結果うまれた誤解だからです。
ただし、そのような誤解も歯周病への不十分な知識による誤った解釈に由来するものなので、歯周炎に対して抗カンジダ薬は効かないというのは揺るぎない事実です。
高齢者の急性発作に抗生物質使いまくっていると菌交代現象からカンジダ性歯肉炎になります。
— 中田智之@歯学博士/医療行政アナリスト (@DashNaka) March 9, 2021
抗生物質でも治らない接触痛という状態。
ここに抗真菌薬を使うと、バチッと治る訳です。
この成功体験を不十分な分析で勘違いすると、「歯周病に抗真菌薬が効く!」という勘違いが生まれます。そ https://t.co/nV66KANyWW
以上のように、抗生物質の乱用によるカンジダ性歯肉炎の発症、それに対する抗真菌薬の著効、という構図になっています。
これは私自身も目の当たりにしたことがあって、長年歯周病の安定治療をしてきた患者さんが癌の手術を受けて帰ってきたとき、しばらくして歯肉に著しい接触痛がでるという状態になってしまいました。
いままでは歯肉の調子が悪くなっても一時的な抗生物質の投与、その後の歯石とりでコントロールできていたのですが、その時は抗生物質も効かないし、痛みも強く、入れ歯が使えないため食事も苦労するという状態で、どうすれば良いか深く悩みました。
これを師匠に相談したところ、「手術病歴からカンジダ性歯肉炎の疑いがある。抗真菌薬をつかってみよう」とアドバイスを受けました。これがドンピシャ!
一発で痛みも消え、安定した状態になりました。その後癌の主治医にも情報共有したのは言うまでもありません。
こういった臨床体験を通じて、「いくら抗生物質を投与しても改善しない」→「抗真菌薬を投与したら治った!」→「抗真菌薬は歯周病に効く!」というカンチガイが生まれていったのだと思います。
カンジダ性歯肉炎も歯周病の一種だ、というのはその通りですが、そうであればまずカンジダ性歯肉炎の説明をすべきです。
抗生物質の乱用というドクターの不作為だけではなく、外科手術後の重点的な抗生物質の使用や、高齢者の唾液腺機能低下、入れ歯のお手入れ不足でも起こり得ます。
しかし、一般的に歯周病といったワードで指し示すプラーク性慢性歯周炎と明確な区別を行わず、まったく違う病態を故意に混同したのだとしたら悪質なインフォデミック(情報汚染)です。
これは下記学会発行ガイドラインP.54にもある通り、抗真菌薬による歯周病治療の論文は2000年以降、皆無であることからも、歯周病の専門家たちの共通認識であると言えます。
その他の抗生物質に関しては別に論じますが、抗生物質を使用している間は一時的に痛みや腫れが落ち着きますが、病巣はなくならないし病状の進行も止まりません。
残念ながら現代科学において「飲み薬だけで歯周炎を治療する」ことは不可能です。
既に十分に確立・検証された、ごく一般的な歯周病治療を受けて、歯周病を治していきましょう。