SNSボタン

FB連携SDK

2020年11月29日日曜日

Youtuberが広告!? 「歯の脱色」ではないホワイトニングが拡大

歯科ホワイトニングにモラルハザードが起きつつあります。

一般的にホワイトニングとは、化学物質による歯の漂白によって本来の状態以上に白くすることを示します。しかし近年流行している歯科医師不在のホワイトニングエステや、薬液の販売のみのセルフホワイトニングにおいて、ホワイトニングの意味を拡大解釈した巧妙な宣伝広告が増えてきました。

これらの歯科医師不在で行われるホワイトニング、たとえばポリリン酸や、酸化チタンに対するLED光照射というのは、着色物質の分解のみの効果となります。確かに歯の漂白よりもダメージは少なく、ホワイトニングの広義の意味に含まれる行為ということもできます。

しかし着色物質の分解、つまり「歯の表面の汚れをおとす」処置であれば歯科医院での歯のクリーニングで同じ効果を得ることができ、その場合1日で完了し、保険外治療としても5000円以下が相場です。

一方で最近積極的な広告をしているセルフホワイトニング商品を用いて同様の効果を得るために必要な期間は2~4ヶ月で、7万円の費用がかかります。



この価格は歯科医院でのホワイトニングを意識しています。確かに20年ほど前は10万円程度が相場で、それと比較すると安価であると広告されることが多いです。

しかし簡易化と普及による一般化が進み、今は歯科医院でも概ね数万円程度で提供しています。歯科医院で「本来の歯以上に白くなる」狭義のホワイトニングを受けるほうが、むしろ安いかもしれません。

歯の漂白が可能な薬剤は過酸化水素あるいは過酸化尿素のみで、これらは薬機法にて医療機器か医薬品に該当し、歯科医師の監督下のみで使用することができます。

(参考)ホワイトニング ― テーマパーク8020(日本歯科医師会)

(参考)過酸化物を用いた歯面漂白材の取扱いについて ― 東京都福祉保健局(2002年2月6日)


つまり歯科医師不在でのホワイトニングエステやセルフホワイトニングは、一般的に歯科医院で提供しているものと全くの別物ということができます。

これはホワイトニングの言葉の意味・施術法・効果をまぜこぜにすることで、安く見えるようでかえって割高な商品なのかもしれません。

このような事を防止するためには、他の多くの薬剤で行われているとおり、薬機法によって薬剤と効果の表記を関連付け、過酸化水素あるいは過酸化尿素のみが「ホワイトニングもしくはブリーチング」を告知することが可能、と整理すれば解決します。

日本歯科医師会は歯科系議員と連携して迅速な対応をお願いしたいと思います。


もう一つの懸念が、このセルフホワイトニングの広告に有名Youtuberが関与していることです。

医療職ではないYoutuberが薬理効果や薬機法等に詳しくないだろうことは明らかなので、本人に悪気が無いものだろうとは思います。一方でその影響力や誘引効果はいまや絶大なものであるため、今後の発信や紹介に関して十分な注意を払っていただきたいと存じます。


(謝辞)本記事は歯科医師Youtuber ものくろマスク氏と論点整理した上で、著者の責任において執筆しました。

2020年11月20日金曜日

歯科界激震! 「コロナ予防」として未承認次亜塩素酸水を広告販売

本日昼頃、4名もの歯科医師が逮捕されるという衝撃的なニュースが流れました。

ペリオトリートとは成分としては次亜塩素酸水で、10年ほど前に流行したパーフェクトペリオの後継商品として2019年より同歯科医師らを中心に売り出されていたようです。

パーフェクトペリオに関しては歯周病学会から注意喚起のポジションペーパーが出されたことから下火になりましたが、業界で”水商売”と揶揄される同種の商品は後を絶たちません。


(関連)次亜塩素酸水を感染症対策にカウントしてはならない ― アゴラ拙稿(2020年5月31日)

容疑者らは1月頃より8500人に違法販売し、4500万円を売り上げたとみられています。本件に関しては6月にも行政指導を受けていますが、その後改善が見られなかったことを受けての逮捕だろうと考えられます。なお同歯科医師らは容疑を否認しています。

これにはTwitter 歯科アカウントからも多くの声が寄せられました。




このように”水商売”は多くの歯科医師から非常識なものとみられており、長年効果不明瞭の水を高額で販売する手法に対し、批判の声以上の厳しい視線が集まっていました

次亜塩素酸水は、多くの一般人がほんとに効果があるの?ないの?と惑わされています。

はっきりいって下の写真のような使い方では効果ないので、手指の消毒にはアルコール製剤を使いましょう。


次亜塩素酸水が活躍したのはノロウィルス対策で野菜を洗浄する場合で、生成器から源泉かけ流しの大量の次亜塩素酸水を水道水のごとくふんだんに流水として使用した、というものです。人体に対して使用する場合と条件がかけ離れているだけでなく、ボトル詰めされた商品の薬剤安定性に関しても大いに疑問です。

この機会に情報の非対称性を悪用した、不当に高額な”水商売”は根絶されると良いと考えております。

[Youtube] 歯医者の俺が根の治療は成功率100%ではない現実を話そう




2020年11月16日月曜日

[Youtube動画] 歯医者の俺が安い麦茶で着色した思い出を語る!


「安いお茶だと歯に着色しやすいってほんと?」とフォロワーから質問があったので、その回答です。

とりおろし動画!


2020年11月2日月曜日

「一度治した歯が痛い」歯の根の治療の成功率は

咬むと痛い、歯が腫れてしまったなどから始まる、歯の根の治療。「時間がかかる割に、何をされているのかよくわからない」というのが多くの人の率直な感想だと思います。

場合によっては非常に長い期間、多くの来院回数をかけているにもかかわらず、いつまでたっても治らないというケースもあるでしょう。

根の治療は多くの歯医者さんで一般的に行われている一方で、実は成功率に限界があり、突き詰めると高い専門性が必要な分野だというのはご存知でしょうか。

根管治療の成功率は8~10年予後のデータは、厚労省でも周知されています。

(参考)歯の神経の治療(根管治療) ― e-ヘルスネット(厚生労働省)

(厚労省eヘルスネットより引用)

1、根の治療の成功率は100%ではない


虫歯による痛みは歯の中にある歯髄という神経組織から発生します。歯髄を機能停止させれば歯の痛みはなくなるので、19世紀初頭にはヒ素を使ったり、熱した鉄線で焼いたりするという治療がされていたそうです。

ただそのままにしておくと歯髄が収まっていた根管という空洞で細菌が増えていきます。それが根の先端にあふれてくると、冒頭のような咬んだときの痛みや、腫れにつながっていきます。

そうならないように根管内を清潔な状態に保ち、細菌が侵入しないように天然ゴム製の薬剤でシーリングするというのが現在行われている治療法で、19世紀ごろから確立していったそうです。

ここで重要なのは、歯の根の治療の成功率は9割強であり、100%ではないということです。(1)(2)は初めて神経を取る治療を示しますが、それでも上手くいかないケースがあるというのは、歯の根が曲がっていたり、根管同士が融合して複雑な形態になっている場合があるからです。

一方(3)は根の外まで病巣が進行してしまったケースで、治療直後は問題なくとも約10年間での成功率は86%まで低下することが分かっています。

また(5)は一度神経をとった歯が、痛くて咬めなくなったり、腫れたりしたときの再治療の成功率です。この場合62%、他の文献をみても70%前後と、およそ3分の1で10年後までに再発があることがわかっています。



2、通常の治療で治らない場合の外科的アプローチ


ここまで見てきた外科処置を伴わない治療で治らない場合、外科治療を行う場合もあります。方法は歯肉を切開して根の先の病巣めがけて骨に穴をあけ、汚染されている根の先端を切断し、病巣とともに摘出するというものです。

ではその成功率はどの程度でしょう。よく専門家に引用されるシステマティックレビューはこちらです。

Setzer (2010) 従来法59% 改良法94%

もともと一般的な方法では治らない歯が外科手術となるので、その中から従来法で6割程度を治療できるというのは、臨床実感に沿う結果です。

一方改良法とは手術用顕微鏡や新しい充填剤を使用する方法ですが、9割以上というのはちょっと治りすぎのような気がします。文献を精査するとレビューに含めた研究の観察期間は6文献は1年、2文献が2年、1文献が5年で、観察期間としては短いことがわかりました。また5年観察した文献は症例数は多いですが、成功率95%というのは一部を抜き出した数値であり、研究全体での成功率は8割であったようです。

これでは情報が不十分なので、独自に従来法と改良法の成功率を長期観察した文献を医学論文検索エンジンPubMedで調べてみました。

Gagliani (2005) 5年後 従来法78%
von Arx (2014) 5年後 改良法93%
von Arx (2019) 10年後 改良法82%

以上から改良法が従来法に比べ高い成功率を示す傾向はあるらしいですが、5年以上の成功率に関する研究はわずかでした。今後さらなる研究報告が積み重ならないとはっきりしたことは言えませんが、先の表で示した非外科処置の10年後の成功率と比較するなら、10年で8割程度と考えるのが妥当でしょうか。



3、全てのケースで外科治療ができるわけではない


あたりまえの話ではありますが、非外科治療で治らないと判断した全ての歯に対し、改良法外科治療を行えば8割成功する、というものではありません。

非外科治療で治らないと判断し、そのまま外科治療を患者が希望せず抜歯する場合もありますし、外科治療を検討したものの成功の見込みなしと判断し抜歯する場合もあるでしょう。

外科治療に踏み切る判断が厳しく抜歯することが多ければ成功率があがるし、極力抜歯を避けて外科治療を試みれば成功率は下がります。どの程度の見込みで外科手術を実施するか、最終的には患者と歯科医師が相談して決めるので、これまでの同様の研究でも基準統一が難しい部分だと知られています。

とはいっても失敗が確実なのにあえて外科治療を行う歯科医師もいないので、これらの数値は一般的に外科治療が効果的だと判断し、実行したときの成功率だと読むべきではないかと考えております。



まとめ:根の治療は長くかかり、限界もある 


小さな虫歯の治療が1回か2回で終わらせられるのに対し、これらの根の治療は治療回数が多くなります。特に奥歯の場合は複雑なので、最低でも5回程度は必要となるのではないでしょうか。

大昔は痛んでしまったら抜くしかなかった歯を、数十年にわたり温存し機能させることができる方法として、根の治療は重要で手間暇のかけどころです。一方でここまで見てきたように、その成功率には限界があり、何度回数を重ねても治らないものは治りません。

その場合は抜歯が必要となり、失った歯は連結した被せ物やインプラントで補うこととなります。被せ物で治した場合の成功率に関しては以前まとめました。

(関連)その装置は何年もつ?歯科材料の寿命は?「クラウン」を例に ― アゴラ(2020年8月1日)

例えば、一本の抜歯であれば入れ歯になることはほとんどなく、保険適応可能なブリッジという違和感の少ない治療法で、10年間で90%以上の成功率が期待できることがわかっています。

これらを比較した上で、抜歯を避けるあまりに、際限なく根の治療を続けるということがなくなれば良いと思います。