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2019年11月30日土曜日

[動画] 虫歯を3割減らすハミガキを解説!

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。



今回はこれまでもたびたび記事にした「虫歯予防の観点でみた」歯みがき法について動画で説明しました。






根拠となるガイドライン:厚労省 e-ヘルスネット

歯みがきによるむし歯予防効果
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-015.html
フッ素配合歯磨剤
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-007.html



ねんのため言及すると、「歯周病治療のための」歯みがき法とはまったく別だと考えているので、「中田は歯周病認定医なのにブラッシング指導を日和った」というのではないと明言いたします(笑)



全ての人に対して歯周病治療できる水準のブラッシングは必要ないというのが私の考えで、それだけ歯周病治療のためのブラッシング指導はハイレベルであるとお考えいただければと思います!

2019年11月27日水曜日

[動画] 歯肉マッサージって必要なの!?

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。



今日はご質問のあった歯肉マッサージについて、動画で解説しました。






歯肉マッサージという言葉はしばしば聞くと思いますが、しっかり教わる機会は少ないと思います。

歯周病認定医として関係のある分野ですし、勉強会でも取り上げられることのあるテーマですので、確度のたかいマトメになっているはずです!



ご参考になれば幸いです!



<一人反省会>

前回まで全部暗記して話してたんですが、この動画を含め3本ほどカンペ読んでます。

なので目線やダイナミズムが損なわれていますね。

今後は3分以内(覚えきれる)でノーカンペノーカットを目指そうと思います!

このテーマも内容としては良いと思うので、いずれ切り口を変えて採録したいですね。

さしあたり既に録画した分は予定通り順次公開するつもりです!

2019年11月25日月曜日

がんばれ未来の担い手たち! 夢わーく社会体験学習

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

先週は川口市の社会体験学習として、2名の中学生を3日間クリニックでお預かりしました。



(参考:川口市 夢わーく社会体験学習
http://www.sch.kawaguchi.saitama.jp/sachinami-j/h31yumework.html





中田歯科医院では患者さんの誘導・ご案内、治療前後の準備・後片付け業務を基本にお願いしています。

二人とも初めての接客ということで大変緊張していましたが、3日目にはしっかり挨拶ができるように成長していました。



そのうえで模型上での歯型の型取り体験や、ごく基本的な診療補助の体験をしていただきました。

二人とも事前のアンケートで医療系希望だったとのことで、一生懸命とりくんでいました。





診療補助は超安全なケースでバキュームを持ってもらっているだけです。

しかし関係者は分かると思いますが、右側の歯を削るときはどうしても手が一本足りなくなるので、持ってくれているだけでめちゃくちゃ助かります。



これ、私が助かるだけでなく、歯科医師(私)の作業効率が上がることで、患者さんも口を開けている時間が短縮できるので、学生さんが担ったお仕事というのは色んな人を幸せにしています。

それ言えばよかったな



なおこのバキューム持ちに関しては無資格で実施でき、高校生アルバイトなどにも日常的にお願いする作業で、歯科医師の監督の下、学生さんと患者さんの双方の安全性に関しては完全にコントロールした状態で実施しています。




(プライバシー保護のため画像は加工してあります)


有難いことに最終日には、こちらが嬉しくなってしまうサプライズまでありました。

例年手紙などはあり十分有難いのですが、色紙というのは初めてのことで、スタッフともどもヤル気倍増させていただきました





普段は教室でずっと座っている学生さんたちも、半日近くの立ち仕事で新鮮な体験ができたことと思います。

今後も未来の担い手たちに良い後姿を見せられるよう、チーム医療のクオリティアップに努めていきたいと思います!

2019年11月20日水曜日

衝撃の3Dプリンター歯ブラシは有効なのか

こんにちは! 東川口の歯医者・歯周病認定医、中田智之です。



本日はFB仲間から情報提供のあった衝撃(!)の歯ブラシについて考察してみたいとおもいます。

では下記リンクをご覧ください。ジャジャーーーンッ!!!

6秒でできる3Dプリンター歯ブラシ
https://wired.jp/2013/10/03/blizzident/?fbclid=IwAR2549U03QUBgmt5P4eLh3pSHLl17XD80gvPCA0YpHUmoQko12FzyIPrRNc



これはBlizzidentという商品のようですが、すごいインパクトですね!!

実は歯ブラシは様々な形状のものが開発されておりますが、その中でもバツグンの独自性だと思います!



参考までに、これまでおもしろいなーと感じた歯ブラシをご紹介します。

コロコロ歯ブラシ
http://www.shin-shouhin.com/2015/12/03/korokoro/

デッキ型歯ブラシ
https://www.atpress.ne.jp/news/62269



さて話を本筋に戻すと、これらの歯ブラシは有効かどうかというのが質問で、読者のみなさんもソコが気になっていると思います。

 今回はこれらの歯ブラシの有効性について、学術的に分析したいと思います。





1、どういう歯ブラシを使えばいいかは解明されていない


以前より電動歯ブラシVS手用歯ブラシなど、どういった歯ブラシを使うのが最適か、多くの研究がされてきました。

Comparative single-use plaque removal by toothbrushes of different designs.
Claydon N, Addy M.
J Clin Periodontol. 1996 Dec;23(12):1112-6.




しかし有意差のある研究結果はもたらされておらず、学術的コンセンサスとしては「何を使うのが有効かは明らかでないし、既に多くの研究がされてきたので今後も明らかにならないだろう」というところに着地しています。



それは何故でしょうか。



大きな理由としては、人間の口の大きさ・歯並び・顔の筋肉と脂肪のつき方・手の動きのクセに多様性があることが挙げられます。

模型実験で有効性が見られても、実際に多くの被検者に使用してもらって統計をとる段階になると、この被検者ごとの多様性に統計結果が飲み込まれてしまうものと理解しています。



ゆえにその人ごとにやりやすい道具は違っていると認識して臨床に向かうのがよいと思います。



つまりその道具の特性をとらえて個別に指導することが重要で、手が不自由な人には電動ブラシが適しているでしょうし、口の奥まで届かないというケースにはコンパクトヘッドよりも植毛部プラスチックの厚みが薄く丸い形状のものを、歯肉が脆弱でこすれて痛みを伴う場合は毛束が角張っていないものを選ぶのが良いなど、色々なテクニックがあります。





2、何を使うかより、結果的にみがけたかで評価する


それでは何が正解か全くわからないのでしょうか。

そうではなく視点を変えてみて、その道具をつかって結果的にどれだけブラッシングできたか記録し比較することで評価することができます。



具体的に言えば本ブログでもたびたび登場するPCR(O'Learyのプラークコントロールレコード)を測定すればよいでしょう。



3Dプリンター歯ブラシでも、コロコロ歯ブラシでも、いままで使用してきた歯ブラシと比較してPCRが同等か減少していれば、それはその人にとって有効な手段であるということが実証できます。



またPCRが同等であれば所要時間が短いほうが合理的です。

所要時間の短さはフッ素入り歯みがき粉の効果的運用にもつながるので、重要なパラメーターです。





3、もしかしたら研究テーマの宝庫かも


このような新しい歯みがきツールは次々開発されますが、今回の3Dプリンター歯ブラシは、新技術を使用した斬新なものであることは間違いありません。



もちろんお勧めしているわけではなく、PCRを測定しないとなんとも言えないというのが現実ではあります。

しかしデータもないのに有効性を疑うのは、歯科医師であるまえに科学者として正しい姿勢とは思いません。



ここはぜひ、どなたか研究テーマにしてみてはいかがでしょうか。

現状PubMedで検索してもBlizzidentの学術論文は見つかりませんでした。

じつは商品名ではなく、何らかの別の学術的呼称が設定されているのかもしれませんが、そこまで付き合う気ないからパス。



もちろん研究の質としてどの程度のインパクトファクターの雑誌に載るかは、あんまり期待できるものではありませんが、3Dプリンターというもの珍しさで意外といいとこ乗るかもしれませんし、最低でも学会発表でわりと注目を浴びることができると思います。



例えば実験計画を組むとすると、入学したての歯学生(まだブラッシングが上手ではない)を対象とし、男女比を揃えて2群に分けます。

2群ともベースライン時のPCRおよび基礎データを記録します。あくまで一般人が自主的に器具を変更した状況を想定し、あえてTBI(ブラッシング指導)は行いません。

実験群は当日からBlizzidentを使用し、対照群は今まで通りのブラッシングを続けます。

一週間後に再度TBIを測定します。その後全ての被検者にPMTCと口腔衛生指導を行います。

これで単純な解析としてはスタート時点からの変化量で比較できます。

次にもともとブラッシングが良好な群と不良な群を設定し、それぞれどういう結果になったかX二乗検定します。

これで結果がどうあろうと学内発表か学会発表は確実にイケます。万が一有意差がでたら論文化できるかもしれません。



以上、もしやってみようと思ったら、私はセカンドオーサーで大丈夫です。

2019年11月18日月曜日

[動画] 歯医者が口臭とその対策について解説します!



歯学博士 歯周病認定医 中田智之が、口臭とのつきあいかたについてご説明します。

2019年11月12日火曜日

[動画] 時短で効率のよい歯ブラシのしかた



小さい歯ブラシよりも大きな歯ブラシで時短みがきしたほうが、虫歯予防に繋がるかもしれません。
「合理的なブラッシングを考える」の補足的動画です。

2019年11月7日木曜日

麻疹(はしか)の予防接種をしないと、ウィルスに免疫記憶が壊される!?

こんにちは! 東川口の歯医者、中田智之です。

先日サイエンス誌より、麻疹ワクチンの接種低下に警鐘をならす以下の論文が発表されました。

Measles virus infection diminishes preexisting antibodies that offer protection from other pathogens.
Mina MJ, Kula T, et al.
Science. 2019 Nov 1;366(6465):599-606. doi: 10.1126/science.aay6485.




その内容は、麻疹(はしか)にかかると免疫記憶のレパートリーが3~4割失われるというものです。

またこの免疫記憶の消失は麻疹ワクチンを接種することでは起こらないこともわかりました。



ワクチンの予防接種は公衆衛生として重要で、命の危険を伴う疾患の蔓延に歯止めをかけるだけではなく、重篤な後遺症から子供たちを守ります。

予防接種をすることは自分自身や、本人のためだけに限らず、地域や社会のためでもあります。

また我々医療人も医療現場での水平感染予防に、予防接種による免疫獲得をしていることが原則的に求められています。



それではサイエンスにとりあげられた上記新しい論文は、どの程度ワクチン推進の論拠となるのでしょうか。

Facebook上にて質問をいただきました本件、私自身も興味を感じたのでまとめてみました。





1、エビデンスレベルをもとめるために構造化抄読を作成する


ある研究論文をどの程度自分自身の医療体系に取り入れるか、あるいは医療行政として推進していくかは、エビデンスレベルに基づいて判断します。



リンク先にもありますが、エビデンスレベルおよびガイドラインは絶対遵守が求められるものではなく、あくまで意思決定の参考とし、論拠として扱います。

最終的にどのような医療を実施するかに関しては、患者の意思や信念なども含めて患者主体に決定していきますが、より合理的な判断となるよう正しい情報をわかりやすく提供するのが医師の務めでもあります。



さて話を戻すと、エビデンスレベルを求めるためには論文の骨組み部分まで抽出した下記のような構造化抄読を作成するのが近道です。

これは歯周病学会のガイドライン作成などでも取られる一般的な方法です。


構造化抄読

・研究デザイン
症例対照研究

・研究施設
アメリカ・ニュージーランド・フィンランドの医大学

・対症患者
ニュージーランドのワクチン接種率の低い地域における、予防接種を受けていない82名、9±2歳を以下に分類。
Mild MV:中等度の麻疹に罹患した34名
Sivior MV:重度の麻疹に罹患した43名
MV negative:麻疹に罹患した5名

また、以下の対照群を設定した。
control A:年齢と観察機関を上記調査と同程度とした28名
control B:年齢を上記調査と同程度にし、観察機関はより長い31名
control C: 成人で観察機関は麻疹群と同程度の22名
MMR vac:小児でMMRワクチンを接種した33名

・暴露要因
麻疹の罹患

・主要評価項目
VirScan(抗原を多数発現させたファージで網羅的に抗体を調べる)

・結果
Sivior MVで中央値40%、Mild MVで中央値33%の免疫レパートリーを喪失した。
MMR vacによる免疫レパートリーの喪失は見られなかった。
(Fig2-A)

・結論
麻疹罹患によって免疫記憶が失われる。
このとき抗体の減少はなく、記憶細胞の破壊がみられる。(後半の生化学的実験に基づく)

・エビデンスレべル
症例対照研究 Ⅳb


(Wikipediaより引用)


本文中ではコホート調査だと言及があります。

しかし実際にはMild MV,Sivior MV(77) と、MV negative(5)の比較部分のみがコホート調査となっていて、残りの対照群114名は後から追加した形になっています。

また、統計学的有意差はControl Aと、Mild MV, Sivior MVの2項目についての間であったようです。(Student t-test & bonferroni correction。箱髭図なのに?)

論拠の中心となる統計学的有意差の比較項目を鑑みて、研究全体としてはコホート調査(エビデンスレベルⅣa)とは認められないため、症例対照研究とみなすのが妥当と思われます。



この複雑な群分けを鑑みると、恐らく初期研究デザインとしてはコホート調査を予定していたのでしょう。

しかし想定よりも麻疹に罹患しなかったMV negativeが集まらず、1グループ5名では統計解析が成り立たなかったというやむを得ない事情があったのではないでしょうか。

もしMV negativeが20名ほどいれば非常にシンプルなコホート調査となり、標本数こそ少ないながらもワンランク質の高い研究になったと思われます。



一方で119名の対照群は様々なバリエーションを含み、論文の内容に厚みを持たせています。

とくにMMRワクチンを接種したMV vac群はワクチン接種の妥当性を主張するために必要です。



話はそれますが、MMRワクチンは世界で一般的に使用されているワクチンで、長年の安全性に関する実績があります。

しかし同時に薬害捏造事件として有名なウェイクフィールド事件にて脚光を浴びた経歴があります。

自閉症との関連を捏造した論文は最高峰の医雑誌ランセットに掲載されましたが、その後捏造と利益相反が明らかになると論文は撤回され、著者は医師資格を剥奪された、世界的に有名な薬害デマ事件です。

しかし日本ではほぼ同時期にMMRワクチンの国内製造時の問題で本当に薬害が起こっていたので、日本人はウェイクフィールド事件を知らず、薬害デマ問題への社会的な耐性を獲得しないまま現在に至っています。





2、弱いエビデンスにとどまるが、期待は大きい


今回の論文はVirScanという新しい検査方法によって生まれたといえると思います。



ある個人が免疫記憶を持っているかというのは古くから検査法がありましたが、1つずつしか調べられませんでした。

それがVieScanなら少量の血液から30ほどの免疫記憶のレパートリーについて、安価かつ迅速に評価できるということでした。



今後VirScanを使った研究は次々現れてくると思われます。大学院生は狙い目かもしれません。安いらしいし!

https://www.trendswatcher.net/aug-2015/science/血液一滴で感染症がわかるvirscan/



さてエビデンスレベルⅣbというのは従来のガイドラインを鑑みると、「弱いエビデンス」とされることが多いかなと思います。

もちろん「現時点では」ということなので、サイエンスに掲載された実績を踏まえて次々と後追い実験もされるでしょうし、それらを統合したメタアナリシスを作成する際も本論文は十分に議論に耐えられると思います。



またエビデンスレベルを高めるために重要なコホート調査に関しても、Fig1-Bを見る限りMV negative群もサンプル数わずか5ながらもバラツキが少なく、サンプルサイズを大きくすれば良い結果が得られる可能性を期待できそうです。





まとめ


以上から本研究は、VirScanという新しい検査方法を用いて、近年予防接種率が低下し続けている麻疹ウィルスの新たな危険性を示したということが評価され、サイエンス掲載を果たしたものと思われます。



ただし速報・第一報的な論文であり、今後の後追い研究による十分な吟味が必要かと思います。

また本研究からワクチン行政全般について議論するというのは難しいでしょう。



もちろんMMRワクチン推進に関しては本論文単独でも、新しい切り口による強力な論拠になると思われます。

VirScanの応用力の高さなども含め、今後の展開が楽しみです。

2019年11月5日火曜日

TCH(tooth contacting habit)は画期的な学説なのか

こんにちは! 歯医者の中田智之です。



歯医者同士で話をしていると、たびたびTCHという単語が出てきます。

この単語は歯科大学では習わず、教科書にも載っていないので、知らないと恥ずかしい単語ではありません



一方で地上波テレビで取り扱われたり、民間主催の勉強会があるなど、ある程度「名の知れた」概念であることが分かります。

今回TCHがどのようなものであるか歯学博士・臨床研修指導医という見地から調べてみたので、報告・共有したいと思います。





1、TCHの定義を確認する


TCHはtooth contacting habitの頭文字をとったもので、日本語では「歯牙接触癖」と呼称されています。

10冊以下の関連書籍がありますが、その中で共通して以下の論文が引用されており、これがコアな論拠と考えてよいものと思います。

Teeth contacting habit as a contributing factor to chronic pain in patients with temporomandibular disorders.
Sato F1, Kino K, Sugisaki M, Haketa T, Amemori Y, Ishikawa T, Shibuya T, Amagasa T, Shibuya T, Tanabe H, Yoda T, Sakamoto I, Omura K, Miyaoka H.
J Med Dent Sci. 2006 Jun;53(2):103-9.




その中でTCHは「口を閉じたとき、上下の歯が弱い力で接触し続ける状態が日々続く口腔習癖」と定義されています。

この口腔習癖があることで、顎関節症における慢性的な痛みに関係があるのではと仮説を立てています。

(*リラックス状態であれば閉口時、上下の歯は接触しないというのは歯科医師の中では常識です)



この論文では219名の顎関節症患者を対象とした横断研究が行われ、ロジスティック回帰分析が行われています。

いくらかの傾向が発見されたものの、有意差(significant)は見られなかったようです。



またPubMedでのキーワード検索を行いましたが(toothとteethで行った)、関係する英語論文は3件しかヒットしませんでした。それ以外の同じ研究グループの複数の文献でtooth contacting habitという表現は散見されましたが、TCHを中心とした研究ではなく、統計調査の1項目に含まれている扱いでした。特にタイトルにtooth contacting habitを冠する論文は2006年の1件、アブストラクトに単語を含む論文は2件で2012年を最後とし、それ以降の論文発表はありませんでした。(2019年10月30日実施)

成書の参考文献に関しては日本語論文が多く、一般的には日本語論文はエビデンスたる学術論文とは言い難いと考えています。

(*ある程度明確なエビデンスというならば数件のコホート調査、あるいは有意差を伴う大規模な後ろ向き研究が必要と考えています)



つまりこの学説は仮説段階を脱しておらず、日本国内に限定されるもので、世界の研究機関による後追い調査、もしくは概念の共有はなされていないと考えるのが妥当かと思います。



書籍においては著者が自ら仮説段階であること・エビデンスレベルが低いことを認める一方、「TCHはあたらしい学説だから学会ガイドラインにのっていない」と記述があります。

しかしこれはかなり楽観的な表現と感じます。正しくは「TCHは論文が足りず後追いもされてないから今後も学会ガイドラインに載る可能性は低い」としたほうが良いのではないでしょうか。





2、説明しやすいが鑑別診断を忘れてはならない


では書籍におけるTCHはどのように説明されているでしょうか。

これは書籍の著者によって温度差があります。



アカデミックな「源流」に近いところでは、きちんと鑑別診断として副鼻腔炎や神経痛、緊張性頭痛などを挙げて、ある特定の条件の揃った患者に対して向き合っていることがわかります。



しかしアカデミックを離れていくとWSD(楔状欠損)や骨隆起、歯の摩耗、口腔粘膜の圧痕など、必ずしもTCHの診断に結びつかない、他の原因でも起こりうるものを「証拠」として挙げるようになります。



これら様々な仮説的事象を包括して、TCHという一つの筋道で説明するのは医師・患者双方によって分かりやすく魅力的ではありますし、見落としがちなこれら「証拠」をつなぎ合わせ、原因を分析する習慣づけは良いことと思います。

しかしその結論がTCHだけではないことは、しっかり伝えていかなければならないことと感じました。





3、口腔周辺の痛みをTCHと考える危険性


では治療効果についてはどうでしょうか。

アカデミックから離れた書籍やテレビ放映では、TCHを改善することで顎関節由来の慢性疼痛が治り、知覚過敏症も改善し、歯の破折が予防され、頭痛・肩こりも改善する可能性があるとされているようです。



TCHに対する治療法は意識づけを中心とした行動変容療法あるいは筋マッサージがとられるようです。

しかしTCHに対して一定の治療法を設定し、その効果について介入研究をしたという論文はありません
(*日本語論文は十分なエビデンスとは言えないので含みません)



またアカデミックな源流においては補綴学的介入について否定しているのに対し、別の成書では補綴的・矯正的介入を含んだ、ナソロジカルな対応を症例として挙げていました。

私の感覚ではこれは相反するものと見えました。



従来より口腔周辺の痛みについては、顎関節症・副鼻腔炎・三叉神経痛・不定愁訴など多様な原因があり、それぞれ鑑別診断が必要です。

また、こちらは根拠薄弱ではありますが線維筋痛症という概念も提唱されています。



口腔周辺の痛みに関して日常的にそれらと向き合っていれば、TCHというのはある限られた領域、具体的には顎関節症1型・2型のさらに一部に関して取り扱っているものと認識することができると思います。



臨床研修指導医として私が危惧するのは、駆け出し歯科医師がまだ痛みに関して「虫歯か歯周病か」しか頭の中にないうちにこれらの慢性疼痛に出会ったとき、適切な指導を受けないまま原因不明の痛みに関して全てをTCHに原因を求めないかということです。



当然のことながら単なる虫歯による咬合痛でも、それをかばう異常習癖を経て頭痛・肩こりを併発する人はいますし、顎関節症であれば側頭筋の疼痛(頭痛)が現れても全く不思議ではありません。頭痛と倦怠感の主訴から歯性上顎洞炎を診断したこともあります。



これら全ての可能性について、冷静に粘り強く診断をし、それでもわからなければ最も適切とおもう二次医療機関に紹介するのが正しい対応です。

若手歯科医師にはTCHを教える前に、もっと広い視野での診断を教える必要があるのではないでしょうか。





まとめ


以上の通り批判的吟味をしてきましたが、歯科医師および一般市民に対し、当該分野についてフォーカスをあてた功績は大きいと思います。



また介入治療としては行動変容療法か筋マッサージであるため侵襲を与えるものではなく、太古の昔に流行したナソロジーとは違って為害作用(体への不可逆的なダメージ)がありません。

万が一診断が違っていても、悪影響がないというのは良い点です。



一方で行動変容療法は客観的評価が難しいです。

つまり結果的に治らなかった場合、「あなたの努力がたりなかったからだ」と逃げることができるということです。プラークコントロールレコードと違って達成度と治療の成功との関係について論文化された指標も明示されていません。

よってTCHに対する行動変容療法が奏功しなかったら、それに固執せず直ちに別のアプローチを検討する必要があるでしょう。



もちろんこのアプローチでなおった多くの患者さんがいること、またTCHの提唱者の先生方が顎関節症治療の達人であることは疑いようないことと思います。



しかしある治療法をゴールドスタンダードとするには誰がやっても一定以上の効果が得られる再現性が担保される必要があり、そうであれば統計学的に立証できるものと考えております。職人芸的達人技に対して尊敬をしますが、科学的普遍性と区別して考える必要があるのではないでしょうか。



一方で、補綴学分野・顎関節症分野は条件を揃えることが困難で、エビデンスレベルの高い研究を実施しづらいという背景も考慮する必要はあります。

顎関節症の中でも慢性で重篤なものは未だに治療法が確立されていないのですが、それでも目の前の患者さんのために何かしなければならないという現実もあります。

しかしある治療法を「科学的に立証されているから高い確率で治るはずだ」と実施するのと、「実証されていない方法でどこまで治るかわからないけど、それしかないからやってみる」という歯科医師側の心構えの違いは、患者との合意形成において違いが表れてくるのではないでしょうか。



以上から現時点ではTCHについて、一部の患者に対してバチっとはまって解決する場合は確かに存在し、私自身もいくつかのケースで思い当たる節がありますが、日常の診療体系構築としては参考にするとしても優先的に考慮するものではない、というのが私個人の結論です。

以上の論考はTCHを否定するつもりはなく、(提唱者の意向と関係なく)メディアによって拡大解釈されがちな状況を鑑み、自分自身の診療体系構築のためにレビューしたものでありますので、ご理解いただきたく思います。