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2022年1月31日月曜日

短縮歯列 最終回: 短縮歯列は何年もつか?(後半)

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

ここまで短縮歯列について調査を続けてきましたが、システマティックレビューを頼りに質の高い原著論文を総覧してきて、ある程度結論的なものも見えてきました。

そこで今回の投稿を最終回とします。もともと勉強会の症例発表会のために調べてきたので、その一週間前ということで一つの目安になったかなと思います。


まず短縮歯列はそれまでの「失った歯列は補わなければならない」という常識を覆す、ある意味歯科医療が幅広く浸透する以前には当たり前に受け入れられていた状態へ回帰する考え方です。

特に1~2歯の最後方臼歯の欠損に関しては、未処置歯をわざわざ削ってブリッジにするのも、臨床的意義の小さい小型の遊離端義歯を使うのも、臨床家としてあまり気の進まないものでした。

特に小型の遊離端義歯については患者に必要性を説明して作ることにしてもお蔵入りしてしまう場合も多く、対顎の最高方臼歯の提出がどれだけの長期的なデメリットがあるかも、個人的には疑問でした。



既に補綴学会ガイドライン P.82にある通り、国内の学会レベルのコンセンサスとしても短縮歯列の適応は個別判断の上で妥当であることが示されています。

しかしその根拠論文はQoL(生活の質)に関するものが主流でした。臨床家として気になるのは短縮歯列の長期安定性、エンドポイントとしてTooth loss(歯の喪失)やSurvivability of prosthesis(装置の寿命)を据えた文献を読みたいと思っても、それらは研究実現性に問題があり、あまり取り組まれてきませんでした。

短縮歯列の主要なテーマはQoLから費用対便益の論文へと移行しており、これは欧州のエビデンスを反映した政策決定において根拠となる文献としてニーズがありますが、医療制度の違いにより普遍性という観点で限界があり、臨床的ニーズと逸脱する方向に進んでいるような印象を受けました。医療エビデンス(EBM)と政策決定(EBPM)に関しては下記拙稿をご参照ください。



そんな中でTooth lossという具体的なエンドポイントに真正面から取り組んできたのが、先日のブログでもご紹介したドイツ ウルム大学のWalterらの多施設研究です。彼らの研究グループは短縮歯列分野では後発ですが、最初から多施設研究として2003年からしっかりした実験計画に基づいて実施してきたという特徴があります。

もう一つSurvivabllity of prosthesisに関しては下顎という限定的な条件でThomason & Japsonの英国 ニューキャッスル大学のチームが長年取り組んでいます。Thomasonは長年短縮歯列に関する研究を行い、QoL分野で先駆者的なアウトプットをしてきました。ある時期からこのテーマの研究をJepsonに任せたようですが、おそらくJepsonが何らかの理由で研究活動を退いて以降はニューキャッスル大学での短縮歯列の研究は途絶えたようです。

短縮歯列というのは患者にとっては有益な方法ですが、失った歯をどうにかして補おうという学問である補綴学的には「何もしない」というものであり、あまりモチベーションの上がるテーマではないのかもしれません。

歯周病学を専門とする私にとっては保存不可能な歯を抜歯した後、残った歯でどのように短縮歯列のコンセプトを取り入れた全顎ブリッジで最終補綴を行い、義歯を回避するかというのには強い関心があります。

義歯を回避できるということで患者の治療協力モチベーションも上がるので、歯周病治療の進行もスムーズになります。短縮歯列は予知性が最も懸念される部分だと思いますが、これを歯周病メインテナンスで維持するのは歯周病の専門家として取り組み甲斐のある治療だと感じています。



そういうわけで最終回としては、Walterの10年間でのTooth loss、Thomasonの5年間でのSurvivability of prosthesisを構造化抄読としてまとめたいと思います。Walterの5年間でのTooth lossは直近のブログでまとめましたので、ご参照ください。




The Randomized Shortened Dental Arch Study: Tooth Loss Over 10 Years.
Walter MH, et al. Int J Prosthodont. 2018.

実験系:ドイツの多施設研究・ランダム化比較試験・ITT・10年間
母集団:全ての大臼歯を喪失し、両側に犬歯と小臼歯を最低1歯ずつ有する患者。
介入法:義歯群と短縮歯列群の2群に分けた。短縮歯列群は必要ならばブリッジ補綴により5-5の歯列として補綴した。最後方歯が第一小臼歯の場合、第二小臼歯はカンチレバーとして補綴した。
評価法:Tooth loss,カプランマイヤー
結果等:義歯群は79人、短縮歯列群は71人が10年間追跡できた。研究対象の顎で1本も歯を喪失しない確率は義歯群で67%、短縮歯列群で60%、有意差はなかった。
留意点:両群の7割は下顎を対象としていた。

当ブログではおなじみWalterの10年物の研究です。10年目の結果に関しては他にも顎関節症に関して、歯周組織に関して個別にまとめられ、論文として発表されています。

まずこの論文のカプランマイヤー曲線は非常に分かりやすくまとめられているのが特徴です。

ドロップアウトを見てみると、全体的に幅広く分散し、5年目、10年目で多いことがわかります。これは当初の計画が5年観察だったためと考えられます。

また95%CIがグラフ上に明示されているので、Tooth lossが2割の人にが起こるのは3~6年間と幅が大きい、といった読み取り方もできます。大変興味深いです。

一方Scurria,1998のシステマティックレビューでは、ブリッジの10年間の生存率は85%であるとしています。本研究の短縮歯列には多くのブリッジ症例が含まれており、その生存率が60%であったので、既知のブリッジの成績よりもだいぶ悪いということになります。

これに関しては短縮歯列の中でも特にシビアな条件が母集団であったことから結果としては妥当、臨床応用に関しては慎重に判断すべき部分かなと思います。

そしてKhan,2014は短縮歯列についてまとめたシステマティックレビューですが、その中でWalterの5年間の研究が取り上げられており、バイアスリスクが大きいという判定を受けています。

ではWalterはバイアスリスクが高いから信頼性に乏しいかというと、この研究は多施設研究であることを想起する必要があります。多施設研究自体は単施設研究より普遍性は高いと言われていますが、人的リソースについて分散的になる多施設研究は厳格なバイアス対策がしにくいとう点があげられるかもしれません。いずれにせよリスクオブバイアスに関しては留意すべき部分かと思います。



Time to survival for the restoration of the shortened lower dental arch.
Thomason JM, et al. J Dent Res. 2007.
 
実験系:英国の大学病院・ランダム化比較試験・ITT・10年間
母集団:下顎において、全ての大臼歯を喪失し、最低8歯を有する患者。必要ならば前歯部は接着ブリッジにて補綴。Plaque index, Gingival indexは共に20%以下。
介入法:短縮歯列群と、義歯群の30名ずつに分けた。短縮歯列群で第二小臼歯を喪失している場合、第一小臼歯を支台歯として接着性ブリッジで1歯分のカンチレバー補綴をした。
評価法:補綴物の破損状況
結果等:短縮歯列群では24名、義歯群では21名を5年間追跡できた。補綴物の生存率は短縮歯列群で70%、義歯群で25%で、統計学的有意差はなかった。
留意点:生存率に関するグラフなどはなく、詳細不明。

Thomasonのメインの研究テーマは接着ブリッジであり、その応用法として短縮歯列の研究を行ってきています。日本では保険制度の都合で全周の歯台形成を行ったブリッジを行うのが主流ですが、欧州のガイドラインではブリッジ補綴の第一選択は接着ブリッジである、などとされているようです。文献に書いてあった情報なので、詳細は不明です。

余談ですが接着ブリッジは歯を削る量が少なくなる一方で、やはり外れやすいというデメリットはあるようで、本論文でも5年間での接着ブリッジの脱落、というのはかなりの割合で発生しています。

肝心の生存率ですが義歯群が極めて小さくなっています。これは「装着しない」場合を失敗とカウントしていることが影響と推察されます。本研究では前歯部は両群とも接着ブリッジで補綴しているため、義歯を入れていないと前歯がなくなってしまう、という強い動機がありません。

冒頭私が言及したように、大臼歯部だけの義歯を作ってもお蔵入りしてしまった、とうケースが多かったのだと推察されます。特に下顎の大臼歯部の義歯は、上顎の義歯に比べて調整が難しい部位です。

以上から2群間での生存率の比較はあまり意味のないものとなっていて、8歯での短縮歯列の生存率が70%である、というのが注目すべき結果です。

これはWalterの88%という数値と比較すると条件が悪いように見えますが、Walterはエンドポイントが歯の喪失で、Thomsonは装置の破損です。

Thomsonの本論文でも短縮歯列群での歯の喪失は3例であったことが記されていて、単純に5年間追跡できた短縮歯列群24名で割り算すると87.5%になるので、歯の喪失という観点では非常に近い数値になってきます。



・論文を読み終えての所感

WalterとThomsonどちらの研究でも補綴分野の研究にしてはかなり厳密なプラークコントロールが実施されています。これは短縮歯列を実施するにあたって重要な要素だと考えています。

従前から指摘しているようにプラークコントロールは染め出しで数値化しないと追跡したことになりません。患者さんは磨いているつもり、衛生士さんは教えているつもり、となり不毛なすれ違いを続けないためにも、数値化は重要な要素です。

また2論文において概算ですが、5年間での歯の喪失が1~2割という結果に集約したのは興味深い部分です。

WalterのほうがThomsonより歯の本数としてはシビアな条件で短縮歯列を採用していますが、結果に違いはなさそうでした。

以上から私の臨床においては短縮歯列は義歯を回避する有効な手段であると位置づけ、5年間で1~2割、10年間で約半数が寿命を迎える治療法としてご紹介していきたいと思います。

また歯を喪失するまでの時間に関して短縮歯列と義歯に差はありませんが、短縮歯列が破綻したときはほぼ総義歯になる、ということはしっかり伝える必要があるかなと感じました。

前提としてこれらの研究における支台歯は「予後良好である」という条件がありますので、例えば10本連結した短縮歯列のクロスアーチブリッジでも、それぞれの歯が動揺しており永久固定の意味合いが強い場合は上記の成績は見込めない、というのも留意すべき点かと思います。

2022年1月28日金曜日

歯医者でいつマスクを外すか

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

埼玉でもオミクロンの影響でで蔓延防止重点策が適応となりました。

その是非はさておき、新型コロナ蔓延以降で非常に多いのが、

歯医者にいっていつマスクを外すのかわからない

と言うテーマです。


当然ながらマスクを外さないと歯医者の治療はできません。これには多くの歯医者たちも戸惑っており、マスクを外さない患者に対し「何しに歯医者に来たんだ」などゴチるという声も聞こえてきます。

しかし、私としては歯医者側からマスクを外す指示をするのが適切な手順だと考えています。



特にマスク装着に関して厳格なのが教育現場で、いまの1~2年生は「指示があった時以外はマスクを外してはならない」と小学校入学の時点から教育を受けています。

給食も黙食で、マスクを外した状態での会話はご法度。これが彼らが一日の大半を過ごす、学校という場所でのルールです。

大人であっても勤め先によっては厳しいでしょうし、介護看護や保育で働く親は常日頃から厳密なマスク着用を求められていることでしょう。



こういう状況であれば自ずと医療機関であればマスクを外すのは憚られる。医療の専門家である歯医者から、適切なマスク着脱の指示があるのだろうと、待ちの姿勢をとるのが、一般の方々にとっての最適解となるのでは。



そういうわけで我々は、マスクを外した後は極力発声しない、説明はなるべくお互いマスクをした状態で済ませておく、という配慮を前提として、処置に入る直前に満を持して「それではマスクをお外しください」と指示を出す、という態度を求められているのだと感じております。

めんどくせぇ!

さしあたりバレンタインデーまでの蔓延防止対応とのことですが、マスク生活は否応にも当分続きそうな気配です。

我々が何を求められているかを見直し、ニーズの変化に則った対応をしていきたいものですね。

2022年1月27日木曜日

短縮歯列その3:質問にお答え!(前半)

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

短縮歯列の論文読みにトンデモ歯”スターズメンバーが興味をもってくれたので、いただいたお題を中心の切り口でまとめてみたいと思います。



Shortened dental arches and oral function.
Käyser AF. J Oral Rehabil. 1981.

実験系:オランダの大学病院・症例対照研究・2-5年間
母集団:補綴科の患者118人。うち90人は短縮歯列で2年以上経過(うち82%は5年以上経過)。28人は対照群で完全な歯列を有している。年齢は19-71才。
介入法:下図のように6群に分類した。Occlusal units(OU)は小臼歯同士の咬合で1、大臼歯同士の咬合で2とする。クラスIII bに関しては年齢で分類した。
評価法生のニンジンを使用した咀嚼能力テスト。歯槽骨レベル、歯間離開
結果等:OUが減少するほど嚥下するまでの咀嚼回数は増加した。クラスIVでは42%が前歯部で咀嚼した。クラスII bとクラスIVでは咀嚼能力に関する不満が多かった歯槽骨レベル・歯間離開・審美的要件はOU = 4まで緩慢に変化し、OU < 3では急速に悪化した。咀嚼能力・フレミタスはOUの減少と相関して悪化した。
留意点:数値での解析は何もない。時代を感じる。


まずは短縮歯列の最もクラシックな論文から。KayserはLang & Tonetti, 2003でも取り上げられ、短縮歯列に関するレポートや著書など多くの文献を残しています。

また統計的解析を有さないので現在から見ると色々と厳しい論文です。しかしRCTによる研究が推奨され広まっていったのはEffectiveness and Efficiency: Random Reflections on Health Services(Nuffield Trust, 1972)以降。歯周病はRCTと相性がよかったことと後発分野ゆえのリープフロッグ現象に恵まれた分野ということかと思います。

とはいえ本論文がら得られる視差は多く、小臼歯の重要性を訴え、結論では「最小のOUは4で左右対称であることが望ましい」としています。これがそのまま現在まで広く一般に認知される短縮歯列のイメージにつながっているのでしょう。

たとえば4-4などOUが4を下回る場合、歯槽骨レベル・歯間離開・審美的要件が急速に悪化するというのが、この論文で得られる知見かと思います。数字がないのがきつい。

本論文では短縮歯列における中間歯欠損について言及していませんが、「小臼歯の片方を喪失したら補綴すべき」とあります。この論点の詳細は後発の文献に譲ることとなります。



The randomized shortened dental arch study: tooth loss.
Walter MH, et al. J Dent Res. 2010.

実験系:ドイツの歯科大学/歯科病院14施設でのmulticenter study・ランダマイズド比較試験・5年間
母集団:片顎において全ての大臼歯を喪失し、かつ両側に犬歯と小臼歯が残存している、補綴治療が必要な35才以上の患者215人。PDは4mm以下、BoPは25%以下である。除外基準は、精神疾患・顎関節症・不正咬合・薬物乱用。
介入法義歯群は大臼歯と必要であれば第二大臼歯を義歯で補綴した。対合歯は第一大臼歯まで適切な補綴をした。短縮歯列群は最後臼歯が第二小臼歯の場合、補綴しなかった。最後臼歯が第一小臼歯の場合、カンチレバーブリッジによって第二小臼歯を補った。対合歯は第二小臼歯まで必要な補綴をした。どちらの群でも必要な場合、前歯はブリッジ補綴をした。処置は歯学校のfacultyによって行われた。施設と年齢によって層化してランダムに群分けした。
評価法:喪失歯数、プラーク指数、PPD、BoP、カプランマイヤー、ITT
結果等:義歯群で81人、短縮歯列群で71人が解析対象となった。義歯群で22人、短縮歯列群で17人が歯を喪失した。対象となる顎の最後方歯において、義歯群で19本、短縮歯列群で6本の歯の喪失があった。いずれも有意差は認められなかった。喪失歯の60%が対象となる顎の最高方歯で、支台歯となる場合にリスクは大きかった。歯数はバラツキが大きく解析できなかった。
留意点:短縮歯列は上顎に比べ、下顎が7倍程度多い。

一本目のクラシックな論文とは対照的に、モダンな実験系をもつ論文。短縮歯列の限界に挑戦する風雲児、前回もとりあげたWalterの論文です。

その基準はまさかの「左右に犬歯と小臼歯が1本ずつ」。「小臼歯が2本ある」「6本の歯がある」などの条件が多い中、飛びぬけてエクストリームな条件(by Kayser)で短縮歯列界に殴り込みをかけてきました。

いやさすがに「4本あればいい」なんてビックマウスでしょ…。と思いきや、短縮歯列群の歯数は14.8 ± 5.1。つまり全額で9歯のみの患者も複数いるわけで。

論文を読む限り対合が総義歯、という可能性はありえそうなので4本だけで10本ブリッジを成立させているケースがどれだけあるかは不明ですが、少なくとも全額で20歯以下だと歯周病進行リスクが大きいとしたLang&Tonetti 2003 のペリオドンタルリスクアセスメントから見ると「超ハイリスク」になる条件ということです。

ドクターWalter、マジでやりやがった。

結果としては短縮歯列対象顎で5年間で歯が1本も抜けなかったのを「生存」とした場合の生存率は88%です。一方で義歯の場合の生存率は84%。

この結果が最も重要なのでフォーカスを当てると、ますFig.2のカプランマイヤー曲線において打ち切り線は前半と後半幅広く分散しており、後半のほうが多い、となっています。これはITTとして信頼性できる中断の分布と思います。

またディスカッションではこの結果を「既存のレビューと比べると成績が悪い」としていますが、これは既出の短縮歯列論文の条件に比べて、Walterの研究デザインは明確にシビアな条件を設定しており、Kayserの規定するエクストリームケースが多く含まれていたためと考えることができます。


これらの文献をまとめているうちに、Walterの10年経過論文や、それよりも条件の良いケースでのレビューもみつかったので、後半ではそれらをまとめて結論を得たいと思います。




2022年1月24日月曜日

「自分の頭の中だけでは良いものはできない」庵野監督の言葉が刺さるもの

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

週末はサキシル原稿のチェックをトンデモ歯”スターズのメンバーや加藤先輩にしていただきました。

様々な観点からの意見でブラッシュアップした記事は2月13日掲載予定で、鋭意推敲中です。どうぞご期待ください!


(トンデモ歯”スターズ最新記事もよろしくおねがいします)


そんな中で特に刺さったのは「臨床の話をするなら臨床研究で勝負すべき」「医科のQoLは具体的だが歯科のQoLは主観的」などといったものです。他にも(記事で書くので)ここには出せませんが、個別の「確かにそうだよね」とおもうアドバイスをいくつもいただきました。

以前シンエヴァが公開した後の庵野監督のドキュメンタリーで、スタッフに様々なカメラワーク案をださせてそれを見て「自分の頭の中だけでは良いものはできない」と言っていましたが、まさにそうだと思います。


監督がカメラワークを青写真できめちゃったらそこに異論を言う人は限られます。

しかしベテランスタッフにベストの案を出させ、それを見ながら庵野監督は「自分だったらもっとこうして良くする、こう繋げる」というのを引き出すというのが、あの工程なんだろうなと解釈しています。

映像作品が大好きな庵野監督だからこそ、あらゆる作品で「自分だったらもっとこうする」というのがあって、それがモチベーションの一つになるのでしょう。

まさに「他人の頭をかりて、自分だけで考えるもの以上を引き出す」ということかと思います。


だから自分は詳しい人にチェックしてもらったり、編集長とやり取りする中でブラッシュアップしていく過程が大好きです。

2022年1月19日水曜日

[備忘録] 台湾の後輩歯科医と歯周外科・保険制度で意見交換

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

先日勉強会で台湾の歯科医と意見交換する機会があったので、差し支えない範囲でまとめたいと思います。

彼女は台湾の歯科大で資格取得した後、私の母校の歯周病学講座に留学というかたちで入局し、博士号を取得しました。

私の5期後輩で、在籍期間としては被っていませんがとても人当たりがよく、アニメ好きという共通点もあって仲良くさせていただきました。

今は台湾の大学の助教として、歯周病臨床医として再生療法に力を入れているようです。

1,再生療法の必要性

彼女の講演の中で印象にのこったのは、骨内欠損は垂直性骨吸収の場合は長い上皮性付着による治癒で問題ないが、垂直性骨吸収でさらに骨内欠損となっている場合は長い上皮性付着だと清掃性に問題が生じるおそれがあり、再生療法をしたほうが良い、ということでした。

後者の条件の場合再生療法の成功率も高くなるので、合理的だなと思います。

保険治療適応の再生療法薬もあるので、わたしも積極的に提案していこうと思います。でも在庫抱えると赤字なんだな


2,保険適応範囲

もうひとつ有意義だったのが、台湾の保険事情に関するリアルな話です。

台湾は日本同様皆保険制度が取られていますが、医療費に関してはうまくコントロールして抑制されています。

たとえば治療成績によって医院単位で診療報酬1点範囲の価格が変動する制度があります。

これは適切に効果がある治療をしていこうというインセンティブになると同時に、効果が見込めない場合は手術の提案自体を抑制する可能性があります。

特に歯周病の再生療法に関しては治療結果のバラツキが大きく、懸念事項です。

この点について伺ったところ、あまり意識せず、患者ごとに必要な医療を提供しているという回答でした。


一方で再生療法に関しては原則保険外で行っているようでした。そうであれば治療成績による診療報酬の影響は受けないので、これは背景として把握すべきかと思います。

再生療法を伴わない歯周外科治療は保険で行えるようです。再生療法は日本ではごく一部が保険適応になっています。再生療法のために高額な医療器具を使用しているが、これは保険外収入がなければ維持不可能だという見解もうかがえたため、個人的にはそのほうが良いのではないかなと感じています。

ただし専門医申請にあたって保険適応の再生療法には助けられたのは事実です。


こちらに対してはSPT制度導入での変化について聞かれたため、重度歯周病治療後のメンテナンスに関して制度が整備されたのは良いことだけど、多くの開業医がなかなか歯周外科治療に踏み込まないので活用は限定的と感じる、という肌感をお話ししました。

SPT・P重防に関しては歯周病観点からみるとかなり実態に即した整理がされているので、旧来の無理がある制度運用よりは良いと感じています。


やはり海外の現場の声が聴けるのはすごく有意義だなと感じました。今後の発信にも活かせると思います。

2022年1月15日土曜日

プレゼンいろいろ。ケープレ・官僚プレゼン・講義資料

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

昨年末より論文、専門医、勉強会のシステマティックレビューとリターチャーレビュー、サキシル原稿と綱渡りのスケジュールでしたが、なんとか落ち着いてきました。

いま積んでるタスクは勉強会での症例検討会のためのケープレ(兼、専門医プレゼン)づくりと、来月分サキシル原稿といったところです。



まずは定式に則ってやれば終わるケープレ作りから始めていますが、けっこう好きなんですよね。基本ではありますがケープレは、なるべく画像資料だけ提示して、文字を書かないのが重要。

入局したての方だと画面の内容を読み上げるだけになっている方がいますが、読み原稿とプレゼン資料は分けるべきです



しかし現実として講演会などで歯科医のプレゼンでそうなっていないことが多いのは、ロールモデルがお役人さんの資料説明とか、講義のプレゼンとなっているからだと考えています。


保険改定説明会などでお役人さんのプレゼンを官僚のプレゼンをみることは多いですが、これは「もれなく書いてあること」が最重要で、相手が理解しやすいかというのは二の次。むしろ理解するよう読み手側で努力しろ、という部分があります。

分かりやすくプレゼン内容を絞るというのは、自分の意図を踏まえて取捨選択するということ。情報提供として取捨選択するのは、官僚自身の価値判断を容認するということになるので、官僚のプレゼンが見づらいのは仕方ないことではあります。



また授業や講演の資料はハンズアウトを配布することを前提に作られているので、やはり「抜けが無いように」作られることになります。後で見直して勉強しやすいか、という観点ですね。

本当はハンズアウトではなく、よりメタな視点でまとめられている教科書を読むべきだし、講義中重要だと思うことはノートを取るべきです。全ての授業のハンズアウトをファイルにいれるとトンでもない量になり、後で見直すかというと疑問。

でも今時の学生はハンズアウトを配布しないとクレームをつけてくるのが現実。ハンズアウト読むなら教科書じっくり読みこんだ方が勉強になるのになぁ、と個人的には思います。

2022年1月8日土曜日

ツイッターでの発信、炎上対策をどうするか

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

最近医療関係からの発信が活発になってきました。

一方で発信によるリスクを心配する声や、「炎上」が怖いという質問を受けたので、普段私が心がけていることをまとめました。


1,事実関係をしっかり把握する


医療分野に関してはエビデンスということになりますが、論拠を大手新聞、査読付き学術論文、政府文書に立脚することでリスクを避けることができます。

これらは事実関係を担保したものだからです。

もちろん時間の経過とともに新聞記事もしくは学術論文、政府見解の間違いが判明した、ということもあり得ます。

その場合でも「情報は変化するもの」なので、最低限の裏どりは前提としてその時点の発信としては仕方なかったとし、事後に適切に訂正すればよいでしょう。



2,リスクマネジメントの基礎を覚える


よく「謝罪会見」などもありますが、あれは「リスクマネジメント」という一定の様式に基づいています。

グーグルで調べれば多くの情報がわかるので、詳細は専門家の発信を参考にしてほしいと思います。

もし発信が炎上しても、炎上対策のリスクマネジメントをきちんと行えば、早期解決を図ることができます。

また、もしSNS上での炎上が実業に悪影響を及ぼす場合は、お金がかかることですが法的手段をとることも可能です。

法的手段といっても悪質なSNS投稿の削除要求程度なら顔を合わせる必要もありません。

最終手段の切り札として、インターネットにつよい弁護士さんの名刺は持っておくと良いです。歯科医師会と契約している弁護士は医療訴訟が専門なので、ネット対応としては専門性があるか難しいところです。



3,ブロック&ミュートを使い分ける


SNSで言い合いになった時、相手の反応がいつ来るかヤキモキするのは精神衛生上よくないことです。

まずここまでの「事実関係の整理」「リスクマネジメント」ができたら、もうその相手と交す言葉はないので、ミュートしてしまえば良いでしょう。

必要以上に返信するのは、余計なことを言ってしまったり、相手にさらなる燃料を与えることになります。

また、相手が人格否定・ハラスメント・暴言に類するリプライやリツイートをつけた場合は、リツイートにてそれらは「違法行為であるためブロックする」、と宣言してブロックするのが良いでしょう。

SNS炎上対策の専門家の話でも、数名をブロックすると鎮静化するなどという話も聞きます。


以上、まずは自分自身が発信性に正当性があると確信していることが重要です。

その時点での事実誤認などがない、という前提であれば、胸をはって堂々と発信していけばいいと思います。

それでも炎上してしまうのは、発信に何らかの手落ちがあったとか、言う必要のないことまで反論して相手に燃料を与えてしまっているということです。

以前のようなネットリンチは減少しており、多くのひとが冷静に発信元の正当性と、その後のリスクマネジメント・初期対応を注視しています。

もちろん反論を含め嫌な思いをするリスクはありますが、それは発信する以上避けては通れないものです。

あなたの持つ情報や知識が公益に資するものと考えるなら、上記を踏まえて胸を張って発信していく胆力をもつことが、大きな社会貢献に繋がっていくと思います。

2022年1月6日木曜日

「浅草キッド」おもしろかった

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

お正月休みはどうでしたでしょうか。

うちは2歳の子供たちにブン回されつづけたお正月でした。


そんな中でも年末くらいはゆっくり映画でも見ようかということで、子供たちも楽しめるように「ベイマックス」を選びました。

12月にディズニー行った時もベイマックスのアトラクションに子どもたちは大興奮!

私たち夫婦は初見なのですが、テンポの良い展開と心に刺さるセリフの数々に「いい映画だなー」と思いながら見ていました。

悪役が出てくるまでは。

娘、号泣。息子「シナモンがいいーっ!」連呼。

阿鼻叫喚。

…続きがとても気になります。あのあと一体どうなってしまったのか…。



と、いうことで子供ら寝かしてから夫婦でこちらで味直ししました。

ビートたけしのデビューまでを主に描いた作品「浅草キッド」です。


若かりし「タケ」が浅草の師匠とも呼ばれる深見氏に様々な薫陶を受け、その芸風をひとつづつ確立させていく様が描かれています。

テレビ嫌いだった深見氏の映像は残っていない「幻の芸人」と言われるそうですが、その芸風は色濃くタケシ氏に受け継がれているようです。

そう考えると、タケシ氏はクラスの人気者などが多いダウンタウン以降の芸人とはちょっとちがう雰囲気がありますよね。

懐古主義みたいですが、BIG3のお笑いが好きなんだよなぁ。

2022年1月3日月曜日

あけましておめでとうございます!

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

新年あけましておめでとうございます!

昨年は自由に活動しにくい世相でありながら、
5月にサキシル連載開始、11月には専門医申請提出と大きな転機になる年だったと思います。


サキシルは初めての原稿料ありでの連載ということもあり、毎回調べながらしっかり書いています。

その結果社会保障制度について、2対1ルールひいてはEBMについて、歯科医療について、ぐっと詳しくなりました。

インプットのためのアウトプット、という考え方は音喜多さん(参議院議員)から影響を受けたものですが、自分にはあっているようです。




また専門医申請は1月末の書類審査で大勢がきまるということです。

もちろん続く症例発表会、専門医ケースプレゼンテーションが今年前半の大きなミッションになってくるでしょう。

結果発表は5月です。



夏には参議院選挙で、この結果でかなり日本の進む方向性はかわってくるだろうと思います。

サキシルでも様々な角度から盛り上げていきたいと考えています。



来年の後半何やっているか、は分からないですね。

専門医と論文が終わると、私の30代のミッションは完了なのかなと思います。

40代は歯科医師として最も脂がのった時期。不惑、となれるように、歯科医としても書き手としても、いまいただいているお仕事をしっかりやっていきたいと考えています。



それでは本年もよろしくお願いします!
ちなみに今日が誕生日です!!