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2022年1月27日木曜日

短縮歯列その3:質問にお答え!(前半)

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

短縮歯列の論文読みにトンデモ歯”スターズメンバーが興味をもってくれたので、いただいたお題を中心の切り口でまとめてみたいと思います。



Shortened dental arches and oral function.
Käyser AF. J Oral Rehabil. 1981.

実験系:オランダの大学病院・症例対照研究・2-5年間
母集団:補綴科の患者118人。うち90人は短縮歯列で2年以上経過(うち82%は5年以上経過)。28人は対照群で完全な歯列を有している。年齢は19-71才。
介入法:下図のように6群に分類した。Occlusal units(OU)は小臼歯同士の咬合で1、大臼歯同士の咬合で2とする。クラスIII bに関しては年齢で分類した。
評価法生のニンジンを使用した咀嚼能力テスト。歯槽骨レベル、歯間離開
結果等:OUが減少するほど嚥下するまでの咀嚼回数は増加した。クラスIVでは42%が前歯部で咀嚼した。クラスII bとクラスIVでは咀嚼能力に関する不満が多かった歯槽骨レベル・歯間離開・審美的要件はOU = 4まで緩慢に変化し、OU < 3では急速に悪化した。咀嚼能力・フレミタスはOUの減少と相関して悪化した。
留意点:数値での解析は何もない。時代を感じる。


まずは短縮歯列の最もクラシックな論文から。KayserはLang & Tonetti, 2003でも取り上げられ、短縮歯列に関するレポートや著書など多くの文献を残しています。

また統計的解析を有さないので現在から見ると色々と厳しい論文です。しかしRCTによる研究が推奨され広まっていったのはEffectiveness and Efficiency: Random Reflections on Health Services(Nuffield Trust, 1972)以降。歯周病はRCTと相性がよかったことと後発分野ゆえのリープフロッグ現象に恵まれた分野ということかと思います。

とはいえ本論文がら得られる視差は多く、小臼歯の重要性を訴え、結論では「最小のOUは4で左右対称であることが望ましい」としています。これがそのまま現在まで広く一般に認知される短縮歯列のイメージにつながっているのでしょう。

たとえば4-4などOUが4を下回る場合、歯槽骨レベル・歯間離開・審美的要件が急速に悪化するというのが、この論文で得られる知見かと思います。数字がないのがきつい。

本論文では短縮歯列における中間歯欠損について言及していませんが、「小臼歯の片方を喪失したら補綴すべき」とあります。この論点の詳細は後発の文献に譲ることとなります。



The randomized shortened dental arch study: tooth loss.
Walter MH, et al. J Dent Res. 2010.

実験系:ドイツの歯科大学/歯科病院14施設でのmulticenter study・ランダマイズド比較試験・5年間
母集団:片顎において全ての大臼歯を喪失し、かつ両側に犬歯と小臼歯が残存している、補綴治療が必要な35才以上の患者215人。PDは4mm以下、BoPは25%以下である。除外基準は、精神疾患・顎関節症・不正咬合・薬物乱用。
介入法義歯群は大臼歯と必要であれば第二大臼歯を義歯で補綴した。対合歯は第一大臼歯まで適切な補綴をした。短縮歯列群は最後臼歯が第二小臼歯の場合、補綴しなかった。最後臼歯が第一小臼歯の場合、カンチレバーブリッジによって第二小臼歯を補った。対合歯は第二小臼歯まで必要な補綴をした。どちらの群でも必要な場合、前歯はブリッジ補綴をした。処置は歯学校のfacultyによって行われた。施設と年齢によって層化してランダムに群分けした。
評価法:喪失歯数、プラーク指数、PPD、BoP、カプランマイヤー、ITT
結果等:義歯群で81人、短縮歯列群で71人が解析対象となった。義歯群で22人、短縮歯列群で17人が歯を喪失した。対象となる顎の最後方歯において、義歯群で19本、短縮歯列群で6本の歯の喪失があった。いずれも有意差は認められなかった。喪失歯の60%が対象となる顎の最高方歯で、支台歯となる場合にリスクは大きかった。歯数はバラツキが大きく解析できなかった。
留意点:短縮歯列は上顎に比べ、下顎が7倍程度多い。

一本目のクラシックな論文とは対照的に、モダンな実験系をもつ論文。短縮歯列の限界に挑戦する風雲児、前回もとりあげたWalterの論文です。

その基準はまさかの「左右に犬歯と小臼歯が1本ずつ」。「小臼歯が2本ある」「6本の歯がある」などの条件が多い中、飛びぬけてエクストリームな条件(by Kayser)で短縮歯列界に殴り込みをかけてきました。

いやさすがに「4本あればいい」なんてビックマウスでしょ…。と思いきや、短縮歯列群の歯数は14.8 ± 5.1。つまり全額で9歯のみの患者も複数いるわけで。

論文を読む限り対合が総義歯、という可能性はありえそうなので4本だけで10本ブリッジを成立させているケースがどれだけあるかは不明ですが、少なくとも全額で20歯以下だと歯周病進行リスクが大きいとしたLang&Tonetti 2003 のペリオドンタルリスクアセスメントから見ると「超ハイリスク」になる条件ということです。

ドクターWalter、マジでやりやがった。

結果としては短縮歯列対象顎で5年間で歯が1本も抜けなかったのを「生存」とした場合の生存率は88%です。一方で義歯の場合の生存率は84%。

この結果が最も重要なのでフォーカスを当てると、ますFig.2のカプランマイヤー曲線において打ち切り線は前半と後半幅広く分散しており、後半のほうが多い、となっています。これはITTとして信頼性できる中断の分布と思います。

またディスカッションではこの結果を「既存のレビューと比べると成績が悪い」としていますが、これは既出の短縮歯列論文の条件に比べて、Walterの研究デザインは明確にシビアな条件を設定しており、Kayserの規定するエクストリームケースが多く含まれていたためと考えることができます。


これらの文献をまとめているうちに、Walterの10年経過論文や、それよりも条件の良いケースでのレビューもみつかったので、後半ではそれらをまとめて結論を得たいと思います。