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2021年1月28日木曜日

アンブレラレビューやってみた。システマティックレビューをレビューする

ちょうどいま勉強会でアンブレラレビューを作ってみているので、忘備録として学んだことをまとめてみます。有料の勉強会ということもあり、その中で行われた講義や議論はブログの内容に含みません。

私が課題をこなした上での忘備録としてまとめます。


1,システマティックレビューは乱造されている


2020年の1年間で作成されたシステマティックレビューは31375件です。(PubMedにて”reviwe”検索結果に対してsystematic reviewフィルタリング)

比較対象として1995年の1年間で作成されたシステマティックレビューは38件。1995年から2021年現在までのシステマティックレビュー総数は177137件です。これはPubMedでの(とても雑な)検索による数値なので、実態としてはその1.2倍程度はあるだろうと考えられます。

ちょっとした興味から下記のグラフの縦軸を対数変換してみたところ(微生物学講座的発想)、2005年以降はほぼ直線的な増加に。つまり「システマティックレビューはここ10年間、指数関数的な増加をしている」と言い切ることができます。

少し歴史的経緯を整理すると、コクラン共同計画(英)が医学分野にメタ解析=メタアナリシスの概念を導入したが1980年頃。EBMという概念が登場したのは1990 年頃です。それまでレビューはリテラチャーレビューという形式で、メタアナリシスを含まない主観的な「定性的評価」がされてきました。

1996年にはCochraneからQUOROMチェックリストというガイドラインによって、システマティックレビューの形式が固まりました。従来のレビューとの相違は、再現可能性を担保するために一定の手順を踏み、実施可能であればメタアナリシスを含むことで客観的な「定量的評価」が可能となった点です。

しかしシステマティックレビューで用いるメタアナリシスには母集団が正規分布という前提があり、これだけで評価するのは問題があることが1999年には指摘されました。そのため「メタアナリシスのみの論文」ではなく「定量的・定性的評価を組み合わせた定量的システマティックレビュー」がエビデンスレベルの頂点に立つことになります。

医学論文電子化/検索エンジンの発展を鑑み、2009年にCochraneから発表されたPRISMAチェックリストでは検索式(論文検索ストラテジー)の設定を義務付けました。ここで定められたフォーマットが、現在爆発的に増加しているシステマティックレビューの書式と言えます。

[本稿における図はここから引用し、一部改変しています]



2,模索されるシステマティックレビュー評価方法


なぜシステマティックレビューは乱造されるのでしょう。それは自分でフィールドワークや実験を行わなくても、論文投稿できるからです。PRISMAチェックリストに基づいて検索エンジンで論文を調べ、数名で協議しながら進めていけば、労力はともかく誰でもシステマティックレビューは書けてしまいます。

もちろんPRISMAチェックリストすべてを埋めようとすると、それこそコクランレビューのような膨大な文章と論文リストが必要になりますが、論文投稿という観点ではそこまで求められることはありません。

これまでは専門家同士でのディスカッションでも、システマティックレビューの結論を引用すれば決着がつく、というような場面も多くありました。しかし今後はシステマティックレビューがPRISMAチェックリストや、AMSTARチェックリストで何項目埋められるかという観点も必要になってくるかもしれません。


PRISMAチェックリストが登場する前年、2008年には臨床診断ガイドラインを作成するためのシステマティックレビュー評価法であるGRADEアプローチが具体化しました。

これはシステマティックレビューを外部評価する形で、合議と投票で推奨度を決定していく仕組みとなっており、非常に人為的な作業であると感じます。ここまでくると「第三者機関による有識者会議」的なもので、科学的アプローチとはもはや言えないのではないかなぁ、というのが私の感想です。

3,アンブレラレビューとは


アンブレラレビューは2015年頃から増加してきたシステマティックレビューをシステマティックレビューしようという試みです。2015年では1年間に127本、2020年では427件のアンブレラレビューが行われ、年々増加しています。

アンブレラレビューではまず検索式(論文検索ストラテジー)を設定して特定のテーマに関するシステマティックレビューを集めます。それをPRISMAチェックリストやAMSTARチェックリストを行い、論文からPICO・サンプルサイズ・バイアスリスク評価・一貫性/異質性評価・主な結果などを引用して一覧表形式で列挙します。

一方でアンブレラレビューは書式もメタアナリシスも定まっていないため、この一覧表作成のあとは定性的システマティックレビューと同様、主観的な評価を下します

アンブレラレビューを行うことでシステマティックレビューがそれぞれ同様の傾向を示すか、そうではないのかが明らかになり、テーマに対する理解は大きく進むだろうと感じました。

まとめ,アンブレラレビューは必要か


従来の臨床診断ガイドラインを作成していくには、既存のシステマティックレビューが全てのPRISMAチェックリストを満たしているか、最新の状態であるかを評価し、そうでなければやり直しをするということがされてきました。

従来はシステマティックレビューが貴重だったために、基本的に最新版にリニューアルしつつやり直すというのが最適解だったかもしれません。

しかしシステマティックレビューが乱立する昨今において、10本程度を並列して、それぞれの結論に一貫性があるのか、それとも大きなバラツキがあるのか見ていくのは有意義な手段のように思えます。

そういう意味ではGREDEアプローチが協議と合意のもと臨床診療ガイドラインを作成するのを目的にかかげているのに対し、より再現性がとれる方法として科学的な真相に迫る方法であるように感じます。

とはいえ、目的が違うなら文脈が変わってくるのはありうるとしても、その結論が大幅に変化するとなれば違和感があります。GERDEアプローチによる外部評価であれ、アンブレラレビューであれ、その結果はある程度収束していかなければ、どこかに人為的エラーが潜んでいるということかもしれません。

2021年1月20日水曜日

1月18日以降の診療体制について

先日発令された緊急事態宣言をうけ、
1月18日(月)より月・水・金の最終受付時間を7時までと短縮いたします



診療時間について
火曜日は正午まで、その他の曜日は午後7時最終受付となります。


診療内容について

通常の診療内容となります。



電話診について
受診に関して判断が難しい場合は、お電話にて対応いたします。
下記電話番号におかけください。
*受診勧奨に留まらない複雑な対応が必要となる場合は電話診料を頂く場合がございますので、予めご了承ください。
Tell: 048ー295ー3551



感染防御について
来院患者の皆様とスタッフを守るため以下の対応を当分の間継続いたします。

1、診療室入室時点で過去2週間以内に発熱、せき、呼吸困難、強い倦怠感、味覚嗅覚障害がないか確認のうえ、検温させていただいております。
これらがある場合、もしくは検温にて37.5度以上の発熱がある場合、歯科医師の判断によっては発症日から2週間後まで処置を延期させていただく場合があります。

2、スタッフに対し、出勤前の検温を行い、発熱がある場合は休むよう指示しております。


皆様には大変ご迷惑おかけいたしますが、ご協力の程お願い申し上げます。

2021年1月18日月曜日

「効果疑わしいが損にもならない医療情報」をなぜ否定するのか

普段EBMを心がけている仲間うちで、「エビデンスに基づいて、歯と全身の関係の大部分を否定する」ことの是非について話題になり、私自身のスタンスを整理する機会にもなりました。例えば歯周病と糖尿病・早産の関係には根拠がありますが、心疾患や肺炎・リウマチとの関係の根拠は十分にあるとは言えません

一方で実際臨床の現場では歯と全身の健康を結びつける話題でコミュニケーションが円滑になることは知っていますので、そういうのも全部否定して回る、というつもりはありません。


このテーマには2つのレイヤーがあると考えています。

1つは「臨床現場のコミュニケーションの一環として用いるもの」で、これは正解もない部分である故に、個々の歯科医師患者間の信頼関係に基づいて適度に活用すれば良いと考えています。

もう1つは「行政の予算配分やマスメディアの発信」といったもので、このような公共性の高い分野ではエビデンスに基づいて厳格な判断がなされるべき、と考えています。
公共の場での不十分なエビデンスに基づく医療情報を容認することは、歯科医師という職業の倫理観や信頼性の棄損に繋がります。

論拠に乏しい健康法で荒稼ぎをする、というようなことが目に付けば、その批判は国の規制となって歯科医師の自由な経済活動や医療行為の裁量権が損なわれます。業界を守ることも、公益に資することも、エビデンスに基づいてしっかりやっていく、ということが重要だと考えております。



そこまで悪質でないにしても、例えばキシリトールによる虫歯予防効果はほとんどありませんので、そこに費やしている費用や労力を虫歯予防に関する確実性の高いエビデンスのあるフッ素へ振り分けたほうが、虫歯になる確率を減らすことができます。

キシリトールのみ配合された歯みがき粉と、フッ素のみ配合された歯みがき粉のどちらを買うべきかはエビデンスに基づいて明確であり、当然フッ素配合を選ぶべきです。しかし一度浸透した情報を上書きすることは難しく、未だに消費者はどの歯みがき粉を選ぶべきか悩み続けています。

個人が費やせる時間とお金には限界がある以上、根拠に乏しい情報に基づき誤った選択をすると、本来得られるはずだった予防の機会を失うことにつながります。

昨今は歯科医師会ですら動物実験に基づいた根拠に乏しい発表や、根拠の乏しいコロナ感染症予防策を発表し、残念に感じるとともに大きな問題意識を持っております。

ツイッターでは「口腔ケアを受けていればマスクをしなくても良いのではないか」などという一般人からの投稿も話題となり、本末転倒甚だしいことに衝撃を受けました。



さらに言えば厚労省はエビデンスを理解していますが、その上で民意を重視する大衆迎合的な予算配分・政策決定をしがちと感じています。

医療費は年々膨張し、最大の国家支出の一角となり、国民の可処分所得を大幅に侵害しています。これを制御するには「良さそうなことは何でも取り入れる」のではなく、エビデンスに基づいた費用対効果の観点で再構築していく必要があるのではないでしょうか。

「安心安全」「念のため効果がなくても」が最善と思わずに、税金の使い道として妥当性の高いものは何かという観点で今後の医療政策をチェックしていただければと思います。

2021年1月14日木曜日

国民に求めるのにテレワークできない医療界(後編)


では協議会での意見の通り、遠隔医療にはほとんど意味はないのでしょうか。

わたしはそれは市場軽視であると感じます。たった10人前後の協議会で、革新的なアイデアがでるでしょうか。これまで見たこともないアイデアは、今は無名の若者からでる可能性があります。

最初から「遠隔初診でできることはほとんどない」と断じてしまうのは、多くの可能性を奪っていることになりかねません。

例えば私は最近、夜中に子供の具合が悪くなり、#7119の救急安心センターを利用しましたが、ほとんど受診したのと同じレベルの具体的なアドバイスがもらえました。もしこれがなければ夜間休日診療をうけるために、深夜に車を飛ばして5駅先の病院にかけこまなければなりません。

このような病院に行くべきかどうかという受診勧奨の部分でも大きな価値があると思います。


例えば歯科においても、どうしても来院できない場合の対応として、患部を冷やせばよいのか、抜けそうな乳歯はそのままでよいのか程度であれば、それなりに状況は限定されるものの、必ずしも対面初診でなくとも提供できる情報等はあると感じています。

さらに対応可能な部分を広げるのがデジタルツールです。歯科では、子供が唇を切ったなどといったごく軽い外傷などに関しても、写真撮影などで対応できる部分は十分あるのではないでしょうか。

親は翌日歯科医院が開くまでやきもきする必要も、真夜中に車に飛び乗って救急外来にかかる必要もなくなります。逆に、本当に救急受診が必要な人に対し、直ちに救急車を呼ぶべきだとアドバイスすることも可能になるかもしれません。


現在は#7119は無料の公営サービスですが、民間で同様のビジネスが発展しないのは、「受診勧奨は保険適用外」、「無診療治療等の禁止」、「医療機関の斡旋紹介の禁止」などが理由です。

確かに規制を緩和することで様々な問題も予想されるため、監督省庁としてはパンドラの箱は空けたくないかもしれません。しかし、いつまでも従来通りのやり方を守り続けることで、最大の国家支出の一角である医療を維持していくことができるでしょうか。

このような受診勧奨部分のオンライン対応を拡充して、医療へのアクセシビリティを高めておくことは、現状の皆保険制度における医療へのフリーアクセスを維持したまま不要な受診を削減することに寄与できるのではないかと考えております。

2021年1月11日月曜日

[忘備録] フロリデーションファクツ2018を読んでみた

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

ツイッターから、下記にフッ素による虫歯予防の情報が網羅されているという情報がもたらされたので、読んでみることにしました。

フッ素関連の研究って古いものが多かったり、使用法も様々なので、マトメがあるのはありがたいです。





…なんじゃこのボリュームはぁあああ!!

時間があるときにゆっくり読む…というか、必要となった時に索引として使うのがよさそうですね(^^;

2021年1月8日金曜日

国民に求めるのにテレワークできない医療界

緊急事態宣言が発令され、テレワークで出勤者7割の削減が政府から求められました。自分のクリニックでもなにかできることはないかと考えましたが、残念ながら医療機関においてテレワークを導入するのは難しそうです。

これは新型コロナ第1波の頃検討されたオンライン初診に関して、医師会が難色を示したためです。今年3月頃には遠隔医療解禁に関して大いに盛り上がりましたが、2020年4月10日の中央社会保障医療協議会総会にてオンライン初診は「緊急事態宣言下にかかりつけ医において処方箋を書く」だけに矮小化され、急速に下火になったという経緯があります。

その処方箋にしても、薬局にFAXで送るなどといった前時代的で煩雑な手続きを求められたので、結局実施する医療機関は少なかったのではないでしょうか。





歯科遠隔初診に限って議事録を確認すると、「一度も見たこともない口腔内状態に対して診断が難しい」「電話による受診でドクターショッピングが加速する」といった懸念は、たしかにあると思います。

しかしデジタルツールを使用すれば、口腔内の視診に関してある程度できるわけですし、直接対面しても手術歴やアレルギーは受診拒否や生命保険料率増加等を恐れて隠蔽されることが多く、慎重に聴取する必要があるのは変わりません。対面であれば喝破できるなどというのは、科学的な態度でしょうか。


確かに遠隔初診を保険適応とすることについて、高いハードルを求めるのは一理あります。それでは保険外診療であればオンライン初診はかまわないのでしょうか。

医師法第20条は,「医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付してはならない(一部中略)」としています。デジタルツールによる画像による視診を「診察」に含めるかはグレーゾーンなので、行政は常に違法認定できる権限を持っています

これでは医療機関としても、デジタルツールやプラットフォームの開発としても慎重にならざるを得ません。

既にほとんど全てが保険外治療である矯正歯科の分野では、初回相談や経過チェックの部分でオンライン診療導入が進んでいますが、サービス導入が進まないのは法的なリスクを感じるからです。



次回をお楽しみに

・受診勧奨でも十分な価値

・皆保険制度による医療制度の硬直化

・デジタルツール導入医院から先行実施でも良いのでは。施設基準は既存制度にもある。

・冷あん法や食形態指導などの生活指導部分でオンライン診療を活かす余地は十分にある


2021年1月4日月曜日

維新のベーシックインカム論を読み解く。その3:年金部分で気になったこと



大きく関心を引いたのは年金の報酬比例部分、通称二階建て部分です。維新案では報酬比例部分に関しては「そのままにする」ということだったので、ここからは私が維新案を聞く中で感じた問題意識に基づいて検討したものとなります。

現在年金は所得に対する割合で、現在は18.3%が天引きされています。このうち給与明細に記載されるのは個人負担分の9%程度のみですが、残りは雇用者が支払っています。


雇用者が支払っているから自分は得している、と考えるのは間違いです。一般的に業種ごとに人件費割合の相場というのは決まっているので、もし事業者負担分がなければ自分自身の給与が上向くか、現場にもう一人人員が増えて業務が楽になるかのどちらかです。

老齢基礎年金のみを政府の役割と位置付ければ、もっと年金は縮小できるのではないでしょうか。報酬比例部分は国が担う妥当性があるか疑問です。

具体的には年金には厚生年金35兆、国民年金2兆の歳入があり、ここに9兆の国庫拠出が加わって予算となっています。基礎年金は、3500万人(高齢者人数)×6.5万円(基礎年金支給額)×12(ヶ月)=27兆円の概算で、残りが報酬比例部分になります。現状の年金支出が57兆なので、国は生活保護と同様基礎年金のみ担い、それ以上の部分は民間に任せれば、莫大な金額が民間活用されることになります。

また一つの思考体操として、一人6.5万円の子どもBIの予算は1600万人(15歳未満人口)×6.5万円(維新案資産額)×12(ヶ月)=12.5兆円となります。


問題は二重払い問題といい、今の高齢者の人生設計を崩さず、現役世代の損にならない配慮の部分です。2007年頃は「消えた年金問題」などが政権交代の決定打になるなど、かつては「年金は払った分帰ってくる」という意識が強かったようです。

しかし現役世代は支給年齢引き上げや年金支給額への課税などで、既に損しまくっているのが現実です。年金が払った分帰ってくるなどと思っている若者はいないでしょうし、年金がもらえるかどうかすら疑わしい、これ以上大損しないうちに多少の損があっても損切りしたいというのが、私の率直な感想です




維新は大阪府において天王寺公園運営の民営化に関する大きな実績があります。いうまでもなく民営化・自由化となることで競争原理が働きサービスが向上するとともに、国民の選択肢も増えます。国は生命保険などと同じように税額控除で民間年金の加入を後押しすればよいでしょう。

国政維新においても、このような社会保障制度の民営化・自由化のとりくみによる、持続性ある再構築を頑張ってほしいと考えております。



2021年1月2日土曜日

維新のベーシックインカム論を読み解く。その2:批判的吟味


続いて、維新の発表したベーシックインカムプランの試算について各資料と対比していこうと思います。まずこのプランの特徴は基礎年金と生活保護、児童手当を包括するという部分で、特に年金の持続性への強い問題意識を感じます。

年金改革論としては2019年の参議院選挙で維新が訴えていた賦課方式から積立方式の意向よりも合理的と感じます。積立方式はインフレへの耐性が弱いという弱点を抱えています。 

またパートタイマーがパートナーの扶養を外れて税率があがってしまう103万円の壁や、生活保護受給のハードルなど、各制度間にできてしまったバグを一度に解消しようという方向性は賛成です。

維新案は一貫したコンセプトをもって設計されており、今後国政維新の行動指針として自民党と別の軸を打ち出していく論拠としても十分でしょう。

党内議論を乗り越えてパッケージ政策を出せたことは価値のあることだと思いますし、ここで示された様々な考え方や資産額は、今後議論するための叩き台として価値の高いものだと感じます。


つづいて各数値の中で今後様々な議論に活かせそうな部分を確認していきたいと思います。藤田氏は本プランの核となるベーシックインカムの予算は約100兆円だと言及しました。

これは、1.2億(総人口)×12(ヶ月)×6.5万(BI支給仮定額)+ 0.35億(高齢者人口)×12(ヶ月)×2万(上乗分仮定額) = 93.6兆 + 8.4兆 = 102兆とシンプルな積算で確認できます。

その財源は基礎年金25兆円生活保護2兆円児童手当2兆円、所得税控除の合流と、新設の資産課税による税収36兆円、租税特別措置の廃止などを主に充てるようです。



維新案は高所得者へのBIは所得税控除の廃止によって回収するという建付けや、高齢者へのクローバック制度など、「一度配布してからあとで回収する」という先払い方式が特徴的です。これは現状の年金への課税と同じ建付けになっています。

しかし税額控除に関して、租税回避措置に関して、抵抗勢力を恐れない姿勢は買いますが、国政においてこのように全体として辻褄の合う改革はどこまでできるでしょうか。

維新ベーシックインカムプランでは新設の資産課税を中心に、政府予算総額を膨張させて直接給付という形で再分配するという性格があります。既にご存知の通り、政府予算を膨張させてもそれが再分配の予算として使用されるかはわかりません。税金として国庫に入った時点で、裁量権は行政側が握ります。

具体的には2019年の消費増税は社会保険料の増加分という説明で実施されましたが、使えるお金が増えた行政は保育無償化の補助金を新設して、赤字を減らすどころか支出を拡大しました。

これは子育て支援政策という意味では世代間格差の是正として妥当ですが、補助金は行政の裁量でいつでもストップできる欠点があります。

実際2010年から施行された子ども手当は、その財源として15歳未満の基礎控除を廃止して導入されました。しかし2020年の今議論されているのは子ども手当の減額(所得制限の引き下げ)です。15歳未満の基礎控除は一体どこにいってしまったのでしょう

このように予算規模を拡大して再分配をするというのは、長期的に見て国民の負担が増えるだけです。税と社会保障の一体改革によって国民の生活レベルを向上させ、経済刺激をしていくならば、予算規模の縮小と減税・控除・簡素化のいずれかを用いて押し進めなければ、実効性を持ちません

財政規模拡大を防ぐためには控除付き税額控除を維新BIプランと同額程度、年間80万円の控除枠として導入するほうが良いですが、この場合は現状の確定申告制度に基づくと「後払い方式」になるのが欠点となります。



以上から支給を前提として財政規模を拡大させるのはリスクを強く感じます。先払い方式の利点は理解しますが、その財源として資産課税などを打ち出すと、増税部分の議論だけみるみる進行してしまう恐れがあります。

そもそも源泉徴収で課税されたうえで貯蓄した資産への課税は二重課税であり、保有コストの適正化は、租税特別措置の是正で行われるのが本質的です。むしろ既に進んでいるフローの捕捉の徹底化を行ったほうが合理的かもしれません。いまや講演会の謝礼すらマイナンバーが求められます。いずれにせよフローが途絶えればストックは維持できません。

また動画内では「日本の投資価値を高めてキャピタルフライトを防ぐ」と発言がありましたが、ストック課税は一般的にはキャピタルフライトを促進させる方向に動きます。国内の投資価値を高めるためには、総量としての減税をしなければ達成できません。



また租税特別措置や税額控除は廃止が望ましいと動画内では一言でいっていましたが、一つ一つが業界単位での事業継続性に関わってくるほどの重みがあります。これらはマクロの観点で「このように設計したほうが良い」と言っても簡単には簡単には進みません。岩盤規制を一つ一つ打ち崩していくのは、膨大な労力が必要です。

こういった部分ではマクロ視点での利を説いてもなかなか進まないので、各業界内での改革として「2対1ルール」の導入を推進してほしいです。2対1ルールとはアメリカで実施され、規制や補助金1つを新設するために、2つ以上の規制や補助金を廃止することをルールづける制度です。このような制度の総数に上限がないために、制度は複雑になりつづけ、現状にそぐわないルールも残り続けることになり、非効率が拡大し続けます。

業界内で合理化を進めるのであれば今に見合った制度へのアップデートはしやすいですし、同時に制度の総量を減らすとルールをつければ、古く疲弊した制度を廃止していくインセンティブになり、自動的に規制緩和の方向に進みます。このようなミクロの改革の積み重ねが、損得での対立を最小限にします。



維新案に対し、直接給付制度の一本化と公平化の部分は賛同し、試算も大変参考になりました。

このようにたたき台となる政策を発表したことで、社会保障制度への理解が進み、改革の機運が高まるのは良いことだと感じます。

次回は、維新が改革案から外した年金報酬比例部分に関してまとめたいと思います。