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2021年1月2日土曜日

維新のベーシックインカム論を読み解く。その2:批判的吟味


続いて、維新の発表したベーシックインカムプランの試算について各資料と対比していこうと思います。まずこのプランの特徴は基礎年金と生活保護、児童手当を包括するという部分で、特に年金の持続性への強い問題意識を感じます。

年金改革論としては2019年の参議院選挙で維新が訴えていた賦課方式から積立方式の意向よりも合理的と感じます。積立方式はインフレへの耐性が弱いという弱点を抱えています。 

またパートタイマーがパートナーの扶養を外れて税率があがってしまう103万円の壁や、生活保護受給のハードルなど、各制度間にできてしまったバグを一度に解消しようという方向性は賛成です。

維新案は一貫したコンセプトをもって設計されており、今後国政維新の行動指針として自民党と別の軸を打ち出していく論拠としても十分でしょう。

党内議論を乗り越えてパッケージ政策を出せたことは価値のあることだと思いますし、ここで示された様々な考え方や資産額は、今後議論するための叩き台として価値の高いものだと感じます。


つづいて各数値の中で今後様々な議論に活かせそうな部分を確認していきたいと思います。藤田氏は本プランの核となるベーシックインカムの予算は約100兆円だと言及しました。

これは、1.2億(総人口)×12(ヶ月)×6.5万(BI支給仮定額)+ 0.35億(高齢者人口)×12(ヶ月)×2万(上乗分仮定額) = 93.6兆 + 8.4兆 = 102兆とシンプルな積算で確認できます。

その財源は基礎年金25兆円生活保護2兆円児童手当2兆円、所得税控除の合流と、新設の資産課税による税収36兆円、租税特別措置の廃止などを主に充てるようです。



維新案は高所得者へのBIは所得税控除の廃止によって回収するという建付けや、高齢者へのクローバック制度など、「一度配布してからあとで回収する」という先払い方式が特徴的です。これは現状の年金への課税と同じ建付けになっています。

しかし税額控除に関して、租税回避措置に関して、抵抗勢力を恐れない姿勢は買いますが、国政においてこのように全体として辻褄の合う改革はどこまでできるでしょうか。

維新ベーシックインカムプランでは新設の資産課税を中心に、政府予算総額を膨張させて直接給付という形で再分配するという性格があります。既にご存知の通り、政府予算を膨張させてもそれが再分配の予算として使用されるかはわかりません。税金として国庫に入った時点で、裁量権は行政側が握ります。

具体的には2019年の消費増税は社会保険料の増加分という説明で実施されましたが、使えるお金が増えた行政は保育無償化の補助金を新設して、赤字を減らすどころか支出を拡大しました。

これは子育て支援政策という意味では世代間格差の是正として妥当ですが、補助金は行政の裁量でいつでもストップできる欠点があります。

実際2010年から施行された子ども手当は、その財源として15歳未満の基礎控除を廃止して導入されました。しかし2020年の今議論されているのは子ども手当の減額(所得制限の引き下げ)です。15歳未満の基礎控除は一体どこにいってしまったのでしょう

このように予算規模を拡大して再分配をするというのは、長期的に見て国民の負担が増えるだけです。税と社会保障の一体改革によって国民の生活レベルを向上させ、経済刺激をしていくならば、予算規模の縮小と減税・控除・簡素化のいずれかを用いて押し進めなければ、実効性を持ちません

財政規模拡大を防ぐためには控除付き税額控除を維新BIプランと同額程度、年間80万円の控除枠として導入するほうが良いですが、この場合は現状の確定申告制度に基づくと「後払い方式」になるのが欠点となります。



以上から支給を前提として財政規模を拡大させるのはリスクを強く感じます。先払い方式の利点は理解しますが、その財源として資産課税などを打ち出すと、増税部分の議論だけみるみる進行してしまう恐れがあります。

そもそも源泉徴収で課税されたうえで貯蓄した資産への課税は二重課税であり、保有コストの適正化は、租税特別措置の是正で行われるのが本質的です。むしろ既に進んでいるフローの捕捉の徹底化を行ったほうが合理的かもしれません。いまや講演会の謝礼すらマイナンバーが求められます。いずれにせよフローが途絶えればストックは維持できません。

また動画内では「日本の投資価値を高めてキャピタルフライトを防ぐ」と発言がありましたが、ストック課税は一般的にはキャピタルフライトを促進させる方向に動きます。国内の投資価値を高めるためには、総量としての減税をしなければ達成できません。



また租税特別措置や税額控除は廃止が望ましいと動画内では一言でいっていましたが、一つ一つが業界単位での事業継続性に関わってくるほどの重みがあります。これらはマクロの観点で「このように設計したほうが良い」と言っても簡単には簡単には進みません。岩盤規制を一つ一つ打ち崩していくのは、膨大な労力が必要です。

こういった部分ではマクロ視点での利を説いてもなかなか進まないので、各業界内での改革として「2対1ルール」の導入を推進してほしいです。2対1ルールとはアメリカで実施され、規制や補助金1つを新設するために、2つ以上の規制や補助金を廃止することをルールづける制度です。このような制度の総数に上限がないために、制度は複雑になりつづけ、現状にそぐわないルールも残り続けることになり、非効率が拡大し続けます。

業界内で合理化を進めるのであれば今に見合った制度へのアップデートはしやすいですし、同時に制度の総量を減らすとルールをつければ、古く疲弊した制度を廃止していくインセンティブになり、自動的に規制緩和の方向に進みます。このようなミクロの改革の積み重ねが、損得での対立を最小限にします。



維新案に対し、直接給付制度の一本化と公平化の部分は賛同し、試算も大変参考になりました。

このようにたたき台となる政策を発表したことで、社会保障制度への理解が進み、改革の機運が高まるのは良いことだと感じます。

次回は、維新が改革案から外した年金報酬比例部分に関してまとめたいと思います。