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2019年10月29日火曜日

本日の勉強会は関野先生の「統計について」

こんにちは! 歯医者の中田智之です。



本日は日本歯科大学歯周病学講座の定例勉強会に参加しました。

もともとは別テーマだったのですが、急遽変更で関野先生が統計についてレクチャーする回となりました。



やはりこの統計への理解度が関野先生の論文読解の基盤の一つであると感じます。



一般的に大学で医療統計の授業となると、数学の先生が担当して、難しい計算式が出てきて関数電卓つかってウンウンやるというのが相場です。

しかし、論文読解に関しては計算式までは必要となりません。



メジャーな解析法の仕組みを理解してどういう特徴があれば知っていれば、ほとんどの学術論文を理解し、問題点を指摘することができるかと思います。



その点、関野先生の統計のレクチャーは数学的なめんどくささを抑えて、歯科医師的に必要十分なところを教えてくれるので、超よい講義でした





…しかし卒業して10年、だいぶ忘れてますね!!

流石にANOVAとかt検定はいいんですけど、標準偏差を求めるエクセルコマンド忘れてたり、かなり劣化しています(笑)

(講義はエクセルでの実習付きでした)



Kruskal-WallisとMann–Whitneyのどっちがどっちだったっけ、とか!

現役時代はロジスティック回帰分析までは読めてたのに…。ぐぬぬ。



あと大学院生の「PIはノンパラメトリックではないか」という質問には、イイネを送りたいと思います!
(パラメトリック扱いで一応いいということでした)

2019年10月28日月曜日

私はこうやってブラッシング指導を成功させている

こんにちは! 歯医者の中田智之です。



このところ連続して、「歯みがきは時短で効率的に行えばよく、必ずしも完璧を目指す必要はない」というような内容を発信しましたが、そろそろ出身の歯周病学セクターから怒られそうなので、先手を打って「必要な人の厳密なブラッシング」に関してお話します。





1、「厳密なブラッシング」が必要な人を定義する


既にこれまでのブログでも言及していますが、虫歯はフッ素の効果的使用と普通レベルのブラッシングで予防できます。

2019年のコクランレビューでもフロス・歯間ブラシ・ウォーターピックは隣接面齲蝕の減少に関して根拠がないことを指摘しています。

Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries.
Worthington HV1, MacDonald L, Poklepovic Pericic T, Sambunjak D, Johnson TM, Imai P, Clarkson JE.
Cochrane Database Syst Rev. 2019 Apr 10;4:CD012018. doi: 10.1002/14651858.CD012018.pub2.




高齢者の根面齲蝕も含めて、虫歯予防に関してはフッ素が重要な役割を担っています。

Reversal of primary root caries using dentifrices containing 5,000 and 1,100 ppm fluoride.Baysan A, Lynch E, Ellwood R, Davies R, Petersson L, Borsboom P.
Caries Res. 2001 Jan-Feb;35(1):41-6.





一方、歯周病治療に関しては厳密なブラッシングを実施しなければ治らないことが分かっています。

Recolonization of a subgingival microbiota following scaling in deep pockets.
Magnusson I, Lindhe J, Yoneyama T, Liljenberg B.
J Clin Periodontol. 1984 Mar;11(3):193-207.



上記の論文では「厳密なブラッシング」(英語でstrictly plaque control)(PCRが20%程度)をしなければ、歯科医師が歯石取りを行っても歯周病は治らないことが示されています。



この「厳密なブラッシング」はこの論文だけではなく、良好な治療成績を示す論文の前提条件として幅広く共有されています。

また、1980年代にはPCRを20%程度とすることで質の高い歯周病治療ができることが立証されています。それ以降の論文で1980年代よりも治療成績が悪い場合、PCRの20%付近までの改善が達成できていない場合が多いです。



以上から、既に慢性歯周炎となっている患者さんに歯周病治療をする場合、厳密なブラッシングを達成できなければ、治療効果は得られないし、治療後ただちに歯周病が再発することは明らかです。





2、新しいブラッシング習慣の定着(行動変容)は難しい


ブラッシングというのは習慣です。そしてひとたび定着した習慣を維持するためには、高いモチベーションが必要だというのはご理解いただけると思います。



まず、歯ブラシの当て方だけではなく、歯間ブラシやタフトブラシなどの補助的清掃器具も教えなくてはならないし、一通り教えたあとにブラッシングできていない部分に関して、更に部位特異的な指導を重ねる必要があります。

それだけのことをして一時的に厳密なブラッシング法を習得しても、再指導・再モチベーションをしないと速やかに元のブラッシングに戻ってしまうことが分かっています。

The value of repetition and reinforcement in improving oral hygiene performance.
Emler BF, Windchy AM, Zaino SW, Feldman SM, Scheetz JP.
J Periodontol. 1980 Apr;51(4):228-34.


人間の習慣を変えるのは、患者と医療従事者双方の努力・忍耐・継続が必要です。



つまり、歯周病治療を達成するために厳密なブラッシングを習得してもらおうと考えると、一通り器具の使い方を説明するのに数回かかり、それが正しく実施できたかはさらに次の来院で歯垢染出液を使用してPCRを測定し評価する必要があるということです。

そしてそれは一度達成できたとしても常に時間経過とともに忘却し、もともと行っていたブラッシング習慣へと戻っていこうとするので、この人間の習性とも戦い続けなければならないということです。





3、私はこうやってブラッシング指導を成功させている


ここから先は私の経験的な記述となります。

以上を踏まえて、歯ブラシ習慣の変更という行動変容療法は、言うはやすし行うは難しをまさに具現化した、非常にハードルの高い取り組みであると認識する必要があります。



私が歯周病認定医(現在)として専門的歯周病治療を行う場合、以下の手順で行っています。



1、基本治療フェイズは週1ペースで行い、基本的に毎回歯垢染色液を用いたPCRを測定する。
PCR<20%を達成するまでは、あまり感覚を空けずに集中的に指導したほうが良い。
概ね1度の指導で10%ずつ改善するのが過不足ないペースである。
回数はSC+SRPで最低8回を要する
また、PCR測定とブラッシング指導は衛生士主体で行うが、PCRの数値と使用する補助的清掃器具については毎回歯科医師がかならずレビューする。 



2、外科フェイズになると処置部位のブラッシング中止と、歯肉形態の変更があるので多くの場合PCRは一時的に悪化する
また手術創があるので歯垢染色液も使用しづらい。



3、補綴も含めた動的治療終了後、もう一度最初から取り組むつもりでPCRの測定を含むブラッシング指導を行う。
このブラッシング指導は最低半年間、毎月1度PCRの測定を含めて行う
半年後の検査をメンテナンス開始時と位置付け、以降PCRが維持てきているようなら3か月に1度の来院とする。


正直めっちゃたいへんですが、これがもともとブラッシングが不得意だった人に対してPCR20%前後を維持するのに最低限必要な手順だというのが私の意見です。





まとめ


以上から、「厳密なブラッシング」を確立するのは患者も衛生士も私もめっちゃたいへんなので、本格的な指導は本当に必要としている人に限るというのが私のスタンスです。



全ての患者に対してPCR20%前後を達成しようというのは理想論であり、衛生士が過酷な環境になっているか、達成できない患者が声もなく去っているだけ、またはその両方かもしれません。

ある先生の言葉を拝借しますが、「PCR20%達成できる患者だけをふるい分けて治療するというのは、マーケティング的には正解かもしれないが、医療としては片手落ちである」というメッセージを、私は重く受け止めています。



全くブラッシングできていない患者さんに、普通レベルのブラッシングを教えるのか。

普通レベルのブラッシングができているのに虫歯になってしまう患者さんに、フッ素の使い方をおしえるのか。

厳密なブラッシングを達成できなければ治療が不可能である歯周病患者に対して、PCRを含めた高度な行動変容療法を実施するのか。



患者ひとりひとりの状態に応じた、最適かつ最小限の、コスパが最大となる方法を追求する。
(コスパの言葉には、時間・金銭・労力・効果・継続性の意味を含む)

これが真のブラッシング指導であると私は考えています。

2019年10月23日水曜日

合理的なブラッシングを考える

こんにちは! 歯医者の中田です。



ところで歯医者にいったら「もっと歯ミガキしなさい」と挨拶のように言われますよね。

これ、患者さんにとっては割とプレッシャーだと思うんですよね。



実は最新の科学に基づくと、必ずしも全員がそこまで厳密なブラッシングが必要とは限らない、という話はこれまでのブログで書いてきました。



そのうえで私は歯ミガキに関して、大まかに分けると患者の先天的素因によって2つの最適解があると考えています。





1、虫歯(齲蝕)予防と、歯周病予防をわけて考える


まず、歯ミガキで予防したい口腔領域の疾患は2つあって、虫歯(齲蝕)歯周病です。

この2つの先天的素因(以前の記事で解説)予防法は違うので、分けて考える必要があると考えています。



まず虫歯(齲蝕)予防法に関して以前にブログで書いた通り1000ppm以上のフッ素を応用するのが最も効果的です。



かなり端折っていうと、並み以上のブラッシングができていれば、それ以上厳密にブラッシングしても虫歯予防効果はないことがわかっています。

古くはプラークコントロールの重要性がインフレした時代があって、病状を問わず全ての患者さんに歯周病治療レベルの厳密なプラークコントロール(例えばPCR = 20%以下)を指導したり、未就学児童を含めて全年齢を対象にしてフロスの使用を励行したり(Floss or Dieキャンペーン)しましたが、虫歯予防の観点ではあまり意味がないことが分かっています。

詳しくは上記ブログをご参照ください。





一方歯周病の予防法に関しては難しいです。

歯周病はSilent Diseaseと表現されるように、深刻な状態に進行するまで自覚症状がほとんどないという特徴があります。



恐らく半年もしくは年に1度、定期的に歯周組織検査を受ける以外に予防する方法はないと思われます。



厳密なブラッシングをしていれば予防できるのではないか、という意見もあると思いますが、既に述べた通り歯周病は遺伝的影響による感受性の個人差が大きいです。

つまり、全ての人に歯周病治療レベルのブラッシングを求めるのは非効率的だし、逆に感受性が極めて高い人はどんなに磨いても進行してしまう可能性があるということです。



つまり、歯周組織検査で「現在歯周病になっていない診断を受けること」は、「今日までのブラッシングが自分の体にとって十分なものであった」ことの証明です。

また歯周病は早期発見できれば(専門用語で表現すると、歯周炎が確立する前の歯肉炎なら)完全に治癒できる可能性が高いというのもあります。



かの有名なホリエモン氏は定期的な歯石取りを励行していただいているようで大変ありがたいのですが、科学的には歯石取りよりも検査のほうが健康維持にとって重要かもしれない(定期的な歯石取りそれ自体は予防に寄与していない可能性がある)とまで言われています。

Routine scale and polish for periodontal health in adults.
Lamont T, Worthington HV, Clarkson JE, Beirne PV.
Cochrane Database Syst Rev. 2018 Dec 27;12:CD004625. doi: 10.1002/14651858.CD004625.pub5

(以下オタクな人だけ拡大して読んでください)
上記論文の結論に関しては歯科医師の間でも賛否両論あります。
私は歯周病治療の経験から、ブラッシングを改善するという行動変容を起こすには一週間ごとの通院を5回以上し「方法の理解」をさせたのち、6か月間毎月PTCを測定して「習慣として定着」させるという方法をとっています。
つまり本論文にある通り半年に一度通院する程度ではブラッシング習慣は変化しないと考えているため、本論文を支持しています。
一方でブラッシング習慣を変化させる必要があるのは、虫歯が定期的に発生する者と、歯周病の者に限られると考えています。また習慣を変化させ、それを定着させるというのは極めて高度な医療行為で、医師だけでなく患者の負担が大きいものと考えています。
そうであれば、ブラッシング習慣の変更という非常に負担が大きく難易度の高い医療行為は、それを必要としている患者に重点的かつ確実に行うものであって、漫然と効果のない方法を実施するべきではないと考えています。





2、合理的なブラッシング2案


以上から、合理的なブラッシングは以下の二つの選択肢になります。

A:厳密にみがいてフッ素洗う口
B:フッ素入り歯磨き粉をつかって3分以内にブラッシング



これまで日本では(諸外国が既にBがゴールドスタンダードとしているのに)Aタイプ的なブラッシング指導が行われることが多かったです。

これは努力好きで、それが報われると信じる国民性ゆえかなと考えています。



すなわち、小さなヘッドのブラシで、細かく丁寧にみがき、場合によってはフロスを使いましょうというのはAタイプの方法論です。

加えて、歯みがきペーストをつけるとブラッシングできているかわからない、泡だらけになって長時間歯みがきできないだろう、という指導もよくききますが、これもAタイプ(完全なブラッシング)を前提にしていると考えられます。



しかしどんなに磨いても虫歯予防はサチります。(頭打ちになる)

厚労省
歯みがきによるむし歯予防効果(予防法)

そこで何らかの方法でフッ素を作用させるのですが、フッ素入り歯みがきペーストの場合は再びブラシを手に取り刷り込まないとならないため、フッ素入り洗口剤を使用するのが合理的です。



このようなAタイプでの完全なブラッシングは虫歯予防効果も歯周病予防効果も非常に高い効果を発揮するでしょう。

しかし以下のデメリットがあります。

1、完全なブラッシングが実際にできているかどうかは、歯科医院でPCRを測定しない限り不明である。おおむね20%以下で「厳密なプラークコントロール」と言える。
2、厳密に行うためには、歯間ブラシやデンタルフロスを使う必要があるかもしれない。
3、時間がかかり、10分以上必要となる場合もある。
4、ブラッシング後に洗口剤を使用するという習慣は定着しづらい



このように、Aタイプのブラッシングは持続が難しいというのが最大の欠点です。

歯科医院に通院している間Aタイプを習得しても、通院が終わったら継続しなくなってしまった、ということはおこりがちです。

予防法は一生継続しなければ意味がありません



しかし虫歯になりやすい者や、歯周病治療をした者に関しては、Aタイプの「厳密なブラッシング」をしないと健康を維持できないことが分かっているため、患者と医師の双方に高いモチベーションが生まれます。



例をあげると、10代~20代で虫歯で苦労した経験のある者は、医師が強く言わなくてもAタイプの厳密なブラッシングを自発的に行っていく場合が多いです。

これは虫歯の再発に恐怖心があるためで、この場合は生涯にわたってモチベーションが維持されます。



また別の例では、歯周病の手術が終わった後、モチベーションが低下して数年間経過し、再来院時に歯周病が再発してくる場合です。

この時は歯周病治療にはメンテナンスが必須であることを十分に説明してあるので、そのことを実体験を伴って理解し、その後モチベーションが維持されることが多いです。



以上からAタイプのブラッシングは、上記の「虫歯か歯周病のリスクが高い者」に限定して確実に実施していくもので、「特にリスクがない者」に対して広く一般的に指導する方法ではありません。

そうであるのに全員にAタイプでブラッシング指導しようとするから、冒頭のような通院のたびに「もっと磨きましょう」というような、間延びした問答が繰り返されることになります。



もちろんAタイプのブラッシングを既に行っている方は、それは素晴らしい習慣なので継続するのが良いと思います。

急にやめると虫歯や歯周病になるかもしれないので、現在の生活習慣を継続するのは重要です。



私が強調しているのは、歯科医師が全ての人にAタイプで指導するのは非生産的であるということです。

そういうわけで、特にリスクのない、大多数の一般市民に歯科医師が推奨すべきなのはBタイプです。



Bタイプのブラッシング方法については既にまとめているので、そちらをご参照ください。

また3分でブラッシングするためには、歯みがきのヘッドを大きいものにしたり、効率的なブラッシングができる形状のものを選ぶ必要があります。

それらは今後ご紹介しようと考えています。
(下図はBタイプのブラッシングをしている私が使用している歯ブラシです。)







3、予防は無限に拡大する


たとえばAのひとが5分かけてみがいていたとすると、1日の差は2分、一日2回365日磨くと1460分。つまり24時間20分です。

つまり1年間で1日分、ブラッシングに時間を費やしていることになります。



繰り返し主張していますが、予防にはゴールがありません。

だから予防法、健康法は、やればいくらでもやることができる、肥大化する性質を持ちます。



一般人が自主的に必要性を感じて予防行動をとり、自然に飽きてしまう、というのは自由です。



しかし医療として予防を推奨する場合には、最高のコスパを追求するのが正道だと考えています。

コスパという言葉には、時間・金額・労力・効果・継続性といった意味合いを含みます。



生活習慣の改善と定着というのは、既に述べた通り非常に高度な医療行為です。

だからこそ、なるべく手間を減らす・道具の変更で解決するといった、患者の労力を減らして努力させない 定着しやすい行動変容を医療人は心がけるべきと考えています。

2019年10月16日水曜日

虫歯になりやすい人、歯周病になりやすい人は実在する

こんにちは! 歯医者の中田智之です。

今回は体質と虫歯・歯周病のなりやすさの話題です。



皆さんもなんとなく、虫歯になりやすい人となりにくい人がいるというのは実感があると思います。

それらに関して現代科学ではどのように考えられ、実際の治療にどのように生かされるか、お話していきたいと思います。



1、最大の罠!! 齲蝕(虫歯)感受性と歯周病感受性は別物


歯科疾患は歯みがきでたいてい予防できるのですが、その対象となるのが大きく分けて2つ、虫歯(齲蝕)歯周病です。

この2つの先天的素因と予防法は違うので、分けて考える必要があると考えています。



まず先天的素因とは、患者さんそれぞれの生まれついた個性ともいえる遺伝的特性のことで以下の組み合わせがあり、歯科疾患は大きな比重を占めることがわかっています



虫歯の感受性が高い(なりやすい)人と、低い(なりにくい)人がいる。
歯周病の感受性が高い(なりやすい)人と、低い(なりにくい)人がいる。

それぞれ独立しているので、組み合わせは4通りあるということです。



その4つの組み合わせの中で問題になりがちなのは、「虫歯になりにくくて、歯周病になりやすい人」です。



実際にお会いしたおじいさんは、歯ミガキをほとんどしたことないけど虫歯になったことはない、というのが自慢のようで豪語していました。

そして歯が揺れるという主訴なので拝見したら、実際に虫歯は一本もないのですが、全て重度歯周病で遠からぬ未来に総入れ歯にするしかない、という状況でした。



逆に虫歯になりやすい人は10代のころから虫歯で悩むので、歯ミガキに関して自発的に努力をして健康を保つ習慣が身についている場合が多いです。

そうすると、歯周病の先天的素因が有利不利に関わらず、高い水準ブラッシングが既に身についているため発症する可能性が低くなる、ということになります。

虫歯になりやすい人で標準以下のブラッシング水準だと、治療が追い付かない速度で虫歯になって歯が全滅していくので、勘弁してください。ちゃんと教えますので。





2、科学ではどこまで解明されているか


(虫歯。少し大げさな部分もあるけど読みやすい日本語記事)

(虫歯。原著論文)

(歯周病学会は歯周病に関して遺伝的影響について認めている)

(歯周病。いまだ明確な原因遺伝子は特定されていない)



少し大げさな気もしますが、齲蝕に関して5割前後は遺伝で決まる、という記載もあります。



歯周病に関しては発症時期のばらつきが大きいので解析が難しいでしょうが、極端に感受性が高い場合は10代で全ての永久歯が自然脱落して総入れ歯になる、というケースも報告されています。

このように特に歯周病感受性の高い場合、侵襲性歯周炎と呼ばれます。



侵襲性歯周炎は古くは特殊な細菌感染が原因と言われていましたが、現在は否定的な考えが主流で、歯周病感受性が極端に高い場合の発現系であるとみなす方向になっています。

その根拠として、2018年欧州歯周病学会の新分類で侵襲性歯周炎の分類はなくなり年齢に対する骨喪失量から算出した病態進行速度に関する亜分類に統合されました。



これまでも侵襲性歯周炎の治療に関して(特殊な細菌感染であるという仮説に基づく)抗菌薬投与などは治療成績に明らかな違いをもたらしませんでした。

つまり分類・診断しても治療方針に違いをもたらさないため、分類自体をやめるという判断が欧州・米国合同でされたということです。これは妥当なアップデートだと考えています。(病状進行が早い場合は来院間隔を短縮して速やかに歯周外科治療を完遂するという対応をします)



さて話を戻すと、研究ベースでは原因となるSNPsの候補まで上げられていますが、強い相関まで絞り込めていないようです。



実際にはSNPsという単一因子ではなく、実際は唾液の粘稠度やカルシウム含有度、骨格や筋肉の付き方も影響するので、遺伝して決定づけられる様々な先天的な要素が関係すると考えられます。



一見関係ないように見える多要素が複合的原因となるというのは、齲蝕・歯周病だけでなく、癌や糖尿病の分野でも示唆されています。

家族性に現れる疾患であっても、簡単には原因となる遺伝子が特定できないのはそのためです。



もちろん単純なもので既に解明されているものはありますが、話がそれるのでこの程度に。



次回はそれぞれの先天的素因を踏まえた、齲蝕・歯周病予防についてお話したいと思います。

2019年10月15日火曜日

火曜日は中田智之はお休みをいただいてます

こんにちは! 歯医者の中田智之です。



ご存知の方も多いと思いますが、火曜日は私はお休みとさせていただいています。
(月・水・木・金・土の5日が出勤日です)



しかし火曜日も遊び歩いているわけではなく、勉強やお仕事したり、やっぱり遊んでいたりします。





1、通年で午前中は歯周病学講座の聴講生として勉強会に通っている


以前にも書きましたが、この10月から歯周病専門医を目指すため、日本歯科大学歯周病学講座の週1の勉強会に、大学院生たちと並んで参加しています。

この勉強会は歯周病認定医を取得する登竜門にもなっています。



受講料は半年で10万円です。



開業しながら認定医・専門医を目指すのであれば、悪くない選択肢だと思います。



とはいえ座学が中心になるので、Job on the training的なものは期待できないのですが、結局いくら見学してもアシストしても最後には自分で執刀するしかないので、私は知識をしっかり身につけておけば歯周外科治療程度なら対応できると思っています。

もちろん先生方と個人的に仲良くなって、見学を申し込めば喜んで見せてくれると思います。

というか歯周外科治療くらい学生実習でみていたでしょ。



本日は抜歯窩に対してd-EPTF膜が歯槽骨保全に有効かというテーマで勉強会していました。

歯周病だけでなくインプラントや、保存系知識も同時に身に付きます。



先週は歯周病学会の予演会だったので、症例発表に関してフラップデザインの意義をがっつり質問したり、楽しく学ばせてもらっております。





2、上半期は午後、微生物学の実習の指導官をしている


大学院生時代の研究の縁で、微生物学講座非常勤講師になっています。



歯科大学の講座は大きく分けで、臨床系と基礎系に分かれます。

微生物学は基礎系に入ります。



そしてこの基礎系、基本的に人手不足です。

微生物学講義も超ギリギリの人員でまわしています。



歯周病学の院卒なので、歯周病学の非常勤講師という道もあったのですが…。

大所帯でがっつり煮詰まった人間関係より、少人数でだれもが必要とされている環境が私は居心地が良いかな…と



そういうわけで、臨床のみならず様々な仕事上の情報集めのために、非常勤講師として大学に活動拠点を持てるのは有利ですし、後進育成もやりがいのある仕事として取り組んでいます。





3、月1でドラムを習っている


ドラムやってます。もともとはギター(我流)だったのですが、求められることが少なかったんで転向しました。

かれこれ4年目になるかなと思います。



いまは宮本先生に教えてもらっています。

教え方が超うまくて、本日も自分でゆっくりペースでチャレンジしても全然できなかったフレーズを、指定の手順でやるとできてしまう、という魔法使いのような先生です。



ドラムはいいですね、人口がすくないというものあり、積極的に「スタジオいこうぜ!」といって誘えます。

重いギターやベースをかかえなくても、スティックだけ持っていけば大丈夫だし、どこでも練習できるので長く続けられます。

有酸素運動だし!



まとめ


さて、以上のような火曜日を過ごしているわけですが、私は遊んでいるでしょうか。

遊んでいるようで、そうとは言えない。



いちおう、仕事している、ということでよろしくお願いします!!

2019年10月14日月曜日

何度でも読み返せる、社会保障財政の参考書

消費税10%になりましたね。

世の中ではイートイン脱税とか、それを店にチクる正義マンとかお祭り騒ぎになっているようです。



それらをする人たちというより、そういうことが起こってしまう制度設計に対して、残念なことだと思っています。



日頃厚労省の定めた保険診療のルールを常に念頭にお仕事しているので、制度設計については敏感になる職業柄です。

昨今ではふるさと納税とか、ちょっと悪意をもって考えれば抜け穴を見つけらえるような、杜撰な制度設計というのをいつも残念に思っています。



というわけで消費税および社会保険料に関してツイッターでレスバに興じ 建設的なディスカッションをするのは、健康保険収入に頼るところの多い医療従事者として必要なことと思います。



そんなとき、いつも横に置いているバイブルがあります。

それが元経済産業省官僚 宇佐美典也氏「逃げられない世代」です。





この本はたいへん味わい深い本で、通して読んで泣いた 感動するだけでなく、むこう10年近くは引用文献アーカイブとして活用できる、たいへん実用的な構成になっています。



そのような本になるよう書いた、と著者もラジオで言っていましたが、実際に活用するとその便利さに驚きます。

著者はほんとうに頭のいい方だなと常に感嘆する一冊です。



実際公的なデータを参考文献とするために探すと、厚労省と財務省のHPを行ったり来たりすることになるのですが、主要データ・有名な図表はこの本のP.70-P.100あたりに網羅されているので、調べなおしとき楽をすることができます。



何より秀逸なのが、スキが無いのに読みやすい文体

そして謎の感動をもたらす、まさかのラストです。



これは最後まで順番に読了しないと味わえないものかなと思いますので、最後だけ読んで「???」となるようなもったいないことはしないでほしいと思います(笑)

2019年10月7日月曜日

LBGTに関する就労や医療制度について学びました

こんにちは、歯医者の中田智之です。

先日(といっても一か月以上前になってしまいますが)縁があってLGBT勉強会に出席に、意見交換させていただきました。

その中で特に印象深かった点について、忘備録としてまとめておきます。
私の主観的なまとめのため、開催者の主旨とは若干ズレる点があるとはおもいますが、ご了承いただきたく思います。

虹色のリボンのイラスト

1、LGBTは多種多様である


まずLGBTは全件において事情の違う個別対応的に考えなければいけない問題だとわかりました。

昨今LGBTQIAなどとさらにパターンを拡大させる傾向もありますが、4文字や5文字ではまとめられないということです。



あるマイノリティについて属性を知るために、少なくとも以下のテーマがあるということでした。

1、肉体的性別
2、性自認
3、恋愛対象

それぞれについて男性・女性・どちらでもないという3つの選択肢があるので、きわめて大雑把な分類をするだけで3の3乗 = 27通りのテーマがあるということです。


そして冷静に考えてみると、LGBとTの間にテーマの乖離があることが読み取れます。

LGBが恋愛対象に関するテーマであるのに、Tは性自認のテーマであるということです。

LGBTと括ってしまうことで、既にテーマの矮小化の危険性があるということに気づきました。





2、性転換に関する医療法の矛盾


現行法では性同一性障害の診断に基づいてホルモン治療や性適合手術を保険適用で受けられますが、診断に関する道のりが遠いということでした。



たしかに二次性徴を考えると当事者としてはローティーンのうちに対応したい問題ですが、実際にローティーンが行う決断としては非常に難しいものであると感じました。

性自認について、ある程度の流動性があることは認められているからです。



特にハードルが高いと医療当事者として感じたのは、性同一性障害の診断に関して誤診をしたとして罰則をうけた前例があるということでした。



実際どのような展開であったかは知らないのですが、そういった前例があると医師としては診断に関して慎重にならざるを得ません

性自認に流動性があるのでなおさら、ある程度の時間経過を含めて診断したいと考えるのは妥当性があると感じました。



これは以前アゴラに寄稿した記事でも書きましたが、医師の診断による社会的影響が大きすぎる場合、医師は診断すること自体をためらうと思います。



もちろん診断というリスクを負うこと自体が医師の仕事の一つではありますが、それは科学的に明らかに当人の利益に資するという判断の下で行うものです。

当人の利益になるか流動的で判断しきれない事例に関して、医師個人が全責任を負い、場合によっては罰則が伴うという場合、慎重になるのは仕方ないのではと思いました。



もし医師一人で背負えない責任があるのであれば、病院で行われるカンファレンスのようなシステムを作り、リスクを組織単位で負う仕組みづくりをしたほうが良いのではないかと考えています。



具体的にはジェンダークリニックを一次医療機関とし、判断を悩むケースや、患者が早期診断を望む場合に関して二次医療機関・三次医療機関での診療チーム作り、その診療チームは精神科医・外科医・弁護士・ソーシャルワーカーによる連携の下リスクテイクのハードルを下げる、としたほうが良いのではないかと思いました。

もちろん病院単位でもリスクテイクはしたくないと思いますが、市立病院や県立病院であれば行政判断で実施できる可能性はありそうです。




3、就労規則に関しては機会均等を意識


これは私からなげかけた質問ですが、「髭を剃ることを拒否するセクシャルマイノリティに関して、髭を理由に就業拒否し、ユニセックスな清潔感を就労条件として課すのは差別になるか」というテーマです。



以前テレビで「女装はするけど髭は剃らない」というタイプのセクシャルマイノリティの存在をしり、もしそういった人がアルバイトの応募に来たらどうしよう、という想定です。

前提として私は医療機関の経営者なので、スタッフに対して華美な装いを控え、清潔感のある装いをするよう指定しています。



回答としては、「男女共に求めているものであれば、それをセクシャルマイノリティに求めても差別にならない」というもので、なるほど納得しました。



逆に、「セクシャルマイノリティであるから特別な配慮として特定の職務を避けるのは差別である」ということでした。



つまり、今後の就労規則に関しては「男女あるいはセクシャルマイノリティであっても同様の文脈で成立するルール作り」を考えていくのが合理的だと思いました。

これは既に男女差別撤廃の中で「男女共通で成り立つルール作り」として培われているものであるので、ほんの少し配慮の範囲を拡大するだけで十分に達成できるものと感じました。





まとめ


以上からLGBTに関しては全体的に「個別対応よりも普遍的対応」が求められているということを再認識しました。

27通り(実際には無限のパターンがある)の個別対応を考えても非効率的であると同時に、何らかの意図せぬ別の差別につながる可能性があるということです。



一方で医療制度の構築に関してはまだまだ不十分であるとともに、ローティーンの問題である、早く解決したい問題である、流動性がある、ということで医師のリスクテイクに対して何らかの免責を作っていかないと解決しないのではないかなと感じました。



一方ルール作りでは解決できない人付き合い面での解決策として印象に残った話題としては、

「LGBTに対して性に関する話題は避けたほうが良い。それは初対面の異性に対して性に関する話題を避けるのと同じである」

「初めて会う外国人に対して緊張するのと同様で、LGBTに会えばあうほど慣れる

などがありました。



今後も知見を広めていきたいと思います。





東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医




中田 智之

2019年10月4日金曜日

同級生は仕事仲間。歯周病認定医としてクラウンマージンの考え方

入院前なんで半月ほど前ですが、同級生と飲み会してきました。



同級生=歯科大の同窓なので、当然全員同じ仕事をしています。

旧交を温めるだけでなく、仕事上貴重な情報交換の機会でもあります。



というわけで、家族には「飲み会は遊びじゃない!!」といって出かけるわけですが、
全くその通りなわけであります。
(妻とは日頃からよく相談して日程調整しています)






さて同窓とはいえそれぞれ10年間、それぞれの環境でがんばってきたので、やはり一人ひとりが得意分野を持っていて、どの話題も大変勉強になりました。



その中で私に質問があったのが「歯周病専門としては臼歯部のクラウンマージンは歯肉縁上でよいのか」というものでした。

それに対する回答が自分でも良いものだったと思うので、今回書き記そうと思います。

*以下の内容は歯科医師向けになるので、専門用語が増えます





1、特に理由がなければクラウンマージンは歯肉縁上でよい


古くは歯肉縁下に清潔域というのがあるという考え方でしたが、現在それは否定されています。



大昔(虫歯の大洪水時代)はマージン処理に関して全ての歯科医師が厳密に施行していたわけではないので、縁上マージンにすることでプラークコントロールが不良となり、虫歯になってしまった、ということはあり得たでしょう。



しかし昨今はそんな甘いマージン処理は多くの歯科医師がしないでしょうし、患者の平均的なプラークコントロールの水準も向上してきたので、う蝕リスクを考慮して縁上マージンを恐れる必要はありません。



一方で補綴的な要件として、クラウンハイト(支台歯の高さ)が足りないので維持力不足を考慮して歯肉縁下にするという判断は妥当です。

また、前歯部から小臼歯部における審美的歯冠修復(普通の前装冠やCAD冠を含む)は当然マージンを隠す目的で歯肉縁下での設定を行います。





2、生理学的幅径という表現に深い意味はない


よく補綴系の先生が「生理学的幅径に配慮して」とか講演会で言います。



この単語はあたかも特別な基準と配慮があるように聞こえます。

しかも質問すると明確な答えは返ってこないので、ミステリアスなベールに包まれて、より一層重要なものに感じます。



しかし冷静に考えるとあまり適切な表現ではありません。



改めて定義を確認すると、日本歯周病学会発行 歯周病学用語集P.57にて生物学的幅径(biological width)とは「歯肉溝底部から歯槽骨頂部までの歯肉の付着の幅」となっています。



つまり臨床的に生物学的幅径を測定しようとすると、デンタルから拡大率など勘案して不正確に類推するか、ボーンサウンディングをとることが必要になります。当然後者を行った場合は歯周組織の破壊と修復を伴うので歯肉縁は不安定になります。

ようするに現実的に測定不可能です。



ということで、「生理学的幅径に配慮して」という言葉は、「常識的な歯肉縁下マージンを設定する」という意味合いしか持たないので、そうであればそんな難しい単語を使う必要はないと考えています。



歯周病専門家として表現すると、「健常者の歯肉溝は1ミリから2ミリであるので、歯肉溝底部を侵襲しないためには、クラウンマージンは歯肉縁から1ミリ未満で設定する」となり、それで十分なのではないかと考えています。



勉強会においても、「生物学的幅径を考慮してマージンを決定した」という実質的に意味のない呪文を唱えるのではなく、「歯肉縁から0.5ミリから0.8ミリ程度を目指して切削し、TEKにて形成後の歯肉の安定を確認した」などと具体的に表現したほうが聴衆に伝わりやすいのではないでしょうか。



仮に歯肉溝底部を侵襲したとしても、恐れる必要はありません。施術直後は歯肉炎となるリスクは高いですが、長期的に見れば歯槽骨の破壊を伴う歯肉退縮を伴って最終的には妥当な生理学的幅径が構築されるので、歯肉縁下う蝕などの処理もそう割り切ってしまえば良いでしょう。



もちろん出血のコントロールなどをしにくいので、理想的には歯槽骨形成・歯肉形成をしてマージンを縁上に持ってくるのが良いとは思いますが、歯槽骨形成するとそれなりに術後疼痛を伴うので、どちらが合理的か程度によって判断すればよいでしょう。





3、プラークコントロールしやすいかどうかで考える


歯周病治療の目的は、プラークコントロールをしやすい状態を整えることです。



そう考えると、クラウンマージンを縁上にするかどうか、という質問に対する答えは、歯冠歯根移行部の形態を変更しないほうがプラークコントロールしやすいのか、変更してしまった方がプラークコントロールしやすいのか、という判断に集約されます。



つまり、カントゥアが強くて歯根から明確な段差となってエナメル質が立ち上がり、さらにある程度歯肉退縮をしていて歯根露出しているときなどは、全て削って移行的にしてしまったほうがプラークコントロールがしやすくなるでしょう。



逆にそうであっても歯根露出が激しいときは、わざわざ歯肉縁下までマージンを求めると切削量が多くなって侵襲的にも使用金属量的にも無駄が多くなるので、歯冠部の形態変更のみを行って縁上マージンとし、歯根部には手をつけない、という判断でいいと思います。



それに加えて、分岐部病変についてファケーションプラスティをするのか。エナメルプロジェクションが存在するのか。などなどの判断を加えていきます。

近遠心的な分岐部開口部や、根面溝なども考慮しなければなりません。



失活歯の場合はファケーションプラスティした上で縁上マージンにして、術後にフッ素適応しておく、などといったこともします。



東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之









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2019年10月2日水曜日

過剰な抜歯恐怖症にご注意

こんにちは! 東川口の歯医者、中田智之です。

突然ですが「この歯は抜かなきゃいけませんね」と言われたらどう感じるでしょう。

私は「認めたくない!そんな事実!」と思うでしょう。
全ての歯科医師はこの気持ち、忘れちゃいけないと思います。



しかし現実的に歯を抜かなくてはならない状態というのが具体的にあります。

1、歯周病で縦揺れしている歯
2、縦に割れている歯
3、再治療しても反応しない重症の根尖性歯周炎

現代科学ではこういった状態の歯を、抜かずに治療する方法を解明できていません

抜歯のイラスト


1、ダメ元で治療してみることは現実的にはアリだけど…


もちろん、世界有数の天才や、ダメもとの治療がマグレあたりして治るケースはあると思います。
しかしそれはただのギャンブルなので、科学に裏付けされた医療とは言えません。



ダメもとで治療することを否定しませんし、私も日常的に患者の求めに応じてダメもと治療(診断的治療=治療をとりあえずしてみることでその歯を残せるか判定する)を実施しています。



しかし、診断的治療を行う際には患者と十分な認識の共有をすることが重要になってくると思います。



例えば、「そんなに長くはもたないでしょう」とか、「何らかの症状が残る可能性が高いです」などといったことを、治療開始前にはっきり宣言しておかないといけません。

それを怠ると治療完了後に「すぐ悪くなってしまった」や、「治療したけど調子がわるい」ということに対して、患者が大きな不安を感じることにつながってしまうでしょう。



とはいっても歯科医師側も人間なので、患者さんに厳しい現実を突きつけるのは心苦しかったり、治せないことを非難されるのを本能的に避けて、このあたりを曖昧にしたまま進めてしまいたい、という気持ちがあります。

しかしプロフェッショナルとしては「はっきりさせておいた方が、患者のためにも、歯科医師のためにもなる」ということをしっかり踏まえて、日々患者説明に全力を尽くさなければならないと考えています。



もちろん診断的治療が功を奏して完全に治る可能性もありますが、診断的治療は「治療期間と来院回数を賭けたギャンブルである」と認識し、歯科医師は「基本的にギャンブルは避ける」と同時に、「ギャンブルをするかどうか決めるのは患者自身」というスタンスが適切だと考えています。





2、抜歯を先延ばしにすることはできるが…


延命治療に関してその功罪が話題になるように、抜歯適応の歯でも現代医療ではある程度延命処置ができます。



たとえば、抜歯しなければならないことを前提に、腫れによる痛みを抗生物質を使って抑えるとか、揺れている歯を隣の歯と接着剤を使って固定する、などといった処置は「対症療法」といって初期治療として重要な意味合いを持ちます。



しかし対症療法で一時しのぎをしても、何らかの本質的な治療をしないと必ず再発します。

その本質的な治療が、歯を削ったり、歯周病治療で治る、という場合ももちろんありますが、前述のとおり診断に基づいて現代科学では「抜歯しか治療法がない」という場合はありうるということです。



もちろん、患者側の「近々大事な用事があるからいまは抜きたくない」とか、「まだ心の準備ができていない」という理由は尊重すべきで、ある程度期限を区切って治療を先延ばしすることはアリだと思いますし、日常的にそういう判断もとっています。



しかし最終的には「抗生物質が効かなくなる」「固定が1日ももたず外れてしまう」などといった先延ばしが効かなくなる状況に直面するので、抜歯の診断がついたとしてもすぐに実施する必要はない一方で、先延ばしに関してはある程度計画的に実施したほうがいいと考えています。




まとめ


少し歴史的な話をすると、昭和中期は「虫歯の大洪水」時代と呼ばれ、深刻な歯科医師不足で「治療するより抜歯」という判断が比較的多くされた時代がありました。



しかしそれは昭和後期頃に見直され、「抜歯しない治療」というのが強く打ち出されて状況は大きく変わってきました。



その流れの中での問題として、「患者が抜歯するという言葉に関して過剰反応する」あるいは「歯科医師が抜歯を宣告することに息苦しさをおぼえる」状況というのが生まれてきたと思います。



冒頭のとおり、抜歯だけではなく歯科治療自体が、患者に多大な精神的負担をかけるということは忘れてはならないと思いますし、なるべく多くの歯を抜かずに解決する努力というのは大前提だと考えています。



しかしそれと同時に、「抜歯という治療法以外の選択肢がない」あるいは「抜歯をしたほうが治療計画がシンプルになり、患者の負担となる来院回数を減らし、予後の見通しもつきやすくなる」という状況があることに関してはご理解いただきたいと思います。



ましてや「抜歯をすることで連鎖的に健康を害する」ことは、妥当性のある歯科治療を受けている限りほとんどないと言ってよいかと思います。



以上から、抜歯にあたっては十分な説明をしたうえで、現状認識の共有をしっかり行い、抜歯するかしないかに関わらず患者が納得した最終決定ができるよう、日々怠らずコミュニケーションに努めるのが私たち歯医者さんのお仕事だと考えています。





東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之




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2019年10月1日火曜日

日本歯科大学歯周病学講座で勉強を再開しました

こんにちは。歯医者の中田です。

本日より日本歯科大学歯周病学講座の聴講生として、週1度勉強会に参加します。

5年前に歯周病学講座大学院生として勉強していたので、5年ぶりに出戻りしたということになります。

集中して勉強をする人のイラスト(男性)

なぜこのタイミングでというと、歯周病専門医を目指すためです。

春の歯周病学会で認定医を取得したので、そのステップアップを目指すということになります。

http://www.perio.jp/roster/



歯周病学会認定医は、専門機関で2年間勉強した後1ケースの歯周外科治療の症例報告と筆記試験が必要です。

そして歯周病学会専門医は、認定医取得後、さらに専門機関で2年間勉強した後、指定の状況を含む10ケースの症例報告が必要です。

専門医は歯科で国が認めている4つの専門医のうち1つとなり、公式に広告が可能となります。
(ほんとうは「審美専門」や「インプラントセンター」といった広告は違法です)



1ケース、ないし10ケースといっても、歯周病治療は少なくとも1年以上はフォローしないといけない、息の長い治療です。

当然やむをえぬ中断や、症例報告にふさわしくない(患者の希望で外科をせずに妥協的治療をした等)ケースもありますので、1つの症例報告の後ろには10倍ほどの同じような治療をしていると考えていただけると、大変さが伝わるかなと思います。



というわけで、専門医のための「ノルマ」的な意味合いもある通学ではありますが、もちろんせっかく勉強会に出るのであればしっかり学ぶつもりです。
学費も払ってるし…。



というわけでOBということもあるのでむしろ気軽に質問しまくってきて、勉強会を有意義なものにするのに貢献できたかなと思います。



むしろ大学院時代よりも怖いものがなくなって(←人生に対しての開き直りが悪化して)楽しかったかもしれない。



今後もナイスディスカッションを心がけてバシバシ発言していきたいと思いますb




東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之


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