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2019年10月4日金曜日

同級生は仕事仲間。歯周病認定医としてクラウンマージンの考え方

入院前なんで半月ほど前ですが、同級生と飲み会してきました。



同級生=歯科大の同窓なので、当然全員同じ仕事をしています。

旧交を温めるだけでなく、仕事上貴重な情報交換の機会でもあります。



というわけで、家族には「飲み会は遊びじゃない!!」といって出かけるわけですが、
全くその通りなわけであります。
(妻とは日頃からよく相談して日程調整しています)






さて同窓とはいえそれぞれ10年間、それぞれの環境でがんばってきたので、やはり一人ひとりが得意分野を持っていて、どの話題も大変勉強になりました。



その中で私に質問があったのが「歯周病専門としては臼歯部のクラウンマージンは歯肉縁上でよいのか」というものでした。

それに対する回答が自分でも良いものだったと思うので、今回書き記そうと思います。

*以下の内容は歯科医師向けになるので、専門用語が増えます





1、特に理由がなければクラウンマージンは歯肉縁上でよい


古くは歯肉縁下に清潔域というのがあるという考え方でしたが、現在それは否定されています。



大昔(虫歯の大洪水時代)はマージン処理に関して全ての歯科医師が厳密に施行していたわけではないので、縁上マージンにすることでプラークコントロールが不良となり、虫歯になってしまった、ということはあり得たでしょう。



しかし昨今はそんな甘いマージン処理は多くの歯科医師がしないでしょうし、患者の平均的なプラークコントロールの水準も向上してきたので、う蝕リスクを考慮して縁上マージンを恐れる必要はありません。



一方で補綴的な要件として、クラウンハイト(支台歯の高さ)が足りないので維持力不足を考慮して歯肉縁下にするという判断は妥当です。

また、前歯部から小臼歯部における審美的歯冠修復(普通の前装冠やCAD冠を含む)は当然マージンを隠す目的で歯肉縁下での設定を行います。





2、生理学的幅径という表現に深い意味はない


よく補綴系の先生が「生理学的幅径に配慮して」とか講演会で言います。



この単語はあたかも特別な基準と配慮があるように聞こえます。

しかも質問すると明確な答えは返ってこないので、ミステリアスなベールに包まれて、より一層重要なものに感じます。



しかし冷静に考えるとあまり適切な表現ではありません。



改めて定義を確認すると、日本歯周病学会発行 歯周病学用語集P.57にて生物学的幅径(biological width)とは「歯肉溝底部から歯槽骨頂部までの歯肉の付着の幅」となっています。



つまり臨床的に生物学的幅径を測定しようとすると、デンタルから拡大率など勘案して不正確に類推するか、ボーンサウンディングをとることが必要になります。当然後者を行った場合は歯周組織の破壊と修復を伴うので歯肉縁は不安定になります。

ようするに現実的に測定不可能です。



ということで、「生理学的幅径に配慮して」という言葉は、「常識的な歯肉縁下マージンを設定する」という意味合いしか持たないので、そうであればそんな難しい単語を使う必要はないと考えています。



歯周病専門家として表現すると、「健常者の歯肉溝は1ミリから2ミリであるので、歯肉溝底部を侵襲しないためには、クラウンマージンは歯肉縁から1ミリ未満で設定する」となり、それで十分なのではないかと考えています。



勉強会においても、「生物学的幅径を考慮してマージンを決定した」という実質的に意味のない呪文を唱えるのではなく、「歯肉縁から0.5ミリから0.8ミリ程度を目指して切削し、TEKにて形成後の歯肉の安定を確認した」などと具体的に表現したほうが聴衆に伝わりやすいのではないでしょうか。



仮に歯肉溝底部を侵襲したとしても、恐れる必要はありません。施術直後は歯肉炎となるリスクは高いですが、長期的に見れば歯槽骨の破壊を伴う歯肉退縮を伴って最終的には妥当な生理学的幅径が構築されるので、歯肉縁下う蝕などの処理もそう割り切ってしまえば良いでしょう。



もちろん出血のコントロールなどをしにくいので、理想的には歯槽骨形成・歯肉形成をしてマージンを縁上に持ってくるのが良いとは思いますが、歯槽骨形成するとそれなりに術後疼痛を伴うので、どちらが合理的か程度によって判断すればよいでしょう。





3、プラークコントロールしやすいかどうかで考える


歯周病治療の目的は、プラークコントロールをしやすい状態を整えることです。



そう考えると、クラウンマージンを縁上にするかどうか、という質問に対する答えは、歯冠歯根移行部の形態を変更しないほうがプラークコントロールしやすいのか、変更してしまった方がプラークコントロールしやすいのか、という判断に集約されます。



つまり、カントゥアが強くて歯根から明確な段差となってエナメル質が立ち上がり、さらにある程度歯肉退縮をしていて歯根露出しているときなどは、全て削って移行的にしてしまったほうがプラークコントロールがしやすくなるでしょう。



逆にそうであっても歯根露出が激しいときは、わざわざ歯肉縁下までマージンを求めると切削量が多くなって侵襲的にも使用金属量的にも無駄が多くなるので、歯冠部の形態変更のみを行って縁上マージンとし、歯根部には手をつけない、という判断でいいと思います。



それに加えて、分岐部病変についてファケーションプラスティをするのか。エナメルプロジェクションが存在するのか。などなどの判断を加えていきます。

近遠心的な分岐部開口部や、根面溝なども考慮しなければなりません。



失活歯の場合はファケーションプラスティした上で縁上マージンにして、術後にフッ素適応しておく、などといったこともします。



東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之









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