SNSボタン

FB連携SDK

2019年10月2日水曜日

過剰な抜歯恐怖症にご注意

こんにちは! 東川口の歯医者、中田智之です。

突然ですが「この歯は抜かなきゃいけませんね」と言われたらどう感じるでしょう。

私は「認めたくない!そんな事実!」と思うでしょう。
全ての歯科医師はこの気持ち、忘れちゃいけないと思います。



しかし現実的に歯を抜かなくてはならない状態というのが具体的にあります。

1、歯周病で縦揺れしている歯
2、縦に割れている歯
3、再治療しても反応しない重症の根尖性歯周炎

現代科学ではこういった状態の歯を、抜かずに治療する方法を解明できていません

抜歯のイラスト


1、ダメ元で治療してみることは現実的にはアリだけど…


もちろん、世界有数の天才や、ダメもとの治療がマグレあたりして治るケースはあると思います。
しかしそれはただのギャンブルなので、科学に裏付けされた医療とは言えません。



ダメもとで治療することを否定しませんし、私も日常的に患者の求めに応じてダメもと治療(診断的治療=治療をとりあえずしてみることでその歯を残せるか判定する)を実施しています。



しかし、診断的治療を行う際には患者と十分な認識の共有をすることが重要になってくると思います。



例えば、「そんなに長くはもたないでしょう」とか、「何らかの症状が残る可能性が高いです」などといったことを、治療開始前にはっきり宣言しておかないといけません。

それを怠ると治療完了後に「すぐ悪くなってしまった」や、「治療したけど調子がわるい」ということに対して、患者が大きな不安を感じることにつながってしまうでしょう。



とはいっても歯科医師側も人間なので、患者さんに厳しい現実を突きつけるのは心苦しかったり、治せないことを非難されるのを本能的に避けて、このあたりを曖昧にしたまま進めてしまいたい、という気持ちがあります。

しかしプロフェッショナルとしては「はっきりさせておいた方が、患者のためにも、歯科医師のためにもなる」ということをしっかり踏まえて、日々患者説明に全力を尽くさなければならないと考えています。



もちろん診断的治療が功を奏して完全に治る可能性もありますが、診断的治療は「治療期間と来院回数を賭けたギャンブルである」と認識し、歯科医師は「基本的にギャンブルは避ける」と同時に、「ギャンブルをするかどうか決めるのは患者自身」というスタンスが適切だと考えています。





2、抜歯を先延ばしにすることはできるが…


延命治療に関してその功罪が話題になるように、抜歯適応の歯でも現代医療ではある程度延命処置ができます。



たとえば、抜歯しなければならないことを前提に、腫れによる痛みを抗生物質を使って抑えるとか、揺れている歯を隣の歯と接着剤を使って固定する、などといった処置は「対症療法」といって初期治療として重要な意味合いを持ちます。



しかし対症療法で一時しのぎをしても、何らかの本質的な治療をしないと必ず再発します。

その本質的な治療が、歯を削ったり、歯周病治療で治る、という場合ももちろんありますが、前述のとおり診断に基づいて現代科学では「抜歯しか治療法がない」という場合はありうるということです。



もちろん、患者側の「近々大事な用事があるからいまは抜きたくない」とか、「まだ心の準備ができていない」という理由は尊重すべきで、ある程度期限を区切って治療を先延ばしすることはアリだと思いますし、日常的にそういう判断もとっています。



しかし最終的には「抗生物質が効かなくなる」「固定が1日ももたず外れてしまう」などといった先延ばしが効かなくなる状況に直面するので、抜歯の診断がついたとしてもすぐに実施する必要はない一方で、先延ばしに関してはある程度計画的に実施したほうがいいと考えています。




まとめ


少し歴史的な話をすると、昭和中期は「虫歯の大洪水」時代と呼ばれ、深刻な歯科医師不足で「治療するより抜歯」という判断が比較的多くされた時代がありました。



しかしそれは昭和後期頃に見直され、「抜歯しない治療」というのが強く打ち出されて状況は大きく変わってきました。



その流れの中での問題として、「患者が抜歯するという言葉に関して過剰反応する」あるいは「歯科医師が抜歯を宣告することに息苦しさをおぼえる」状況というのが生まれてきたと思います。



冒頭のとおり、抜歯だけではなく歯科治療自体が、患者に多大な精神的負担をかけるということは忘れてはならないと思いますし、なるべく多くの歯を抜かずに解決する努力というのは大前提だと考えています。



しかしそれと同時に、「抜歯という治療法以外の選択肢がない」あるいは「抜歯をしたほうが治療計画がシンプルになり、患者の負担となる来院回数を減らし、予後の見通しもつきやすくなる」という状況があることに関してはご理解いただきたいと思います。



ましてや「抜歯をすることで連鎖的に健康を害する」ことは、妥当性のある歯科治療を受けている限りほとんどないと言ってよいかと思います。



以上から、抜歯にあたっては十分な説明をしたうえで、現状認識の共有をしっかり行い、抜歯するかしないかに関わらず患者が納得した最終決定ができるよう、日々怠らずコミュニケーションに努めるのが私たち歯医者さんのお仕事だと考えています。





東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之




シェアして応援!よろしくおねがいします!