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2019年10月16日水曜日

虫歯になりやすい人、歯周病になりやすい人は実在する

こんにちは! 歯医者の中田智之です。

今回は体質と虫歯・歯周病のなりやすさの話題です。



皆さんもなんとなく、虫歯になりやすい人となりにくい人がいるというのは実感があると思います。

それらに関して現代科学ではどのように考えられ、実際の治療にどのように生かされるか、お話していきたいと思います。



1、最大の罠!! 齲蝕(虫歯)感受性と歯周病感受性は別物


歯科疾患は歯みがきでたいてい予防できるのですが、その対象となるのが大きく分けて2つ、虫歯(齲蝕)歯周病です。

この2つの先天的素因と予防法は違うので、分けて考える必要があると考えています。



まず先天的素因とは、患者さんそれぞれの生まれついた個性ともいえる遺伝的特性のことで以下の組み合わせがあり、歯科疾患は大きな比重を占めることがわかっています



虫歯の感受性が高い(なりやすい)人と、低い(なりにくい)人がいる。
歯周病の感受性が高い(なりやすい)人と、低い(なりにくい)人がいる。

それぞれ独立しているので、組み合わせは4通りあるということです。



その4つの組み合わせの中で問題になりがちなのは、「虫歯になりにくくて、歯周病になりやすい人」です。



実際にお会いしたおじいさんは、歯ミガキをほとんどしたことないけど虫歯になったことはない、というのが自慢のようで豪語していました。

そして歯が揺れるという主訴なので拝見したら、実際に虫歯は一本もないのですが、全て重度歯周病で遠からぬ未来に総入れ歯にするしかない、という状況でした。



逆に虫歯になりやすい人は10代のころから虫歯で悩むので、歯ミガキに関して自発的に努力をして健康を保つ習慣が身についている場合が多いです。

そうすると、歯周病の先天的素因が有利不利に関わらず、高い水準ブラッシングが既に身についているため発症する可能性が低くなる、ということになります。

虫歯になりやすい人で標準以下のブラッシング水準だと、治療が追い付かない速度で虫歯になって歯が全滅していくので、勘弁してください。ちゃんと教えますので。





2、科学ではどこまで解明されているか


(虫歯。少し大げさな部分もあるけど読みやすい日本語記事)

(虫歯。原著論文)

(歯周病学会は歯周病に関して遺伝的影響について認めている)

(歯周病。いまだ明確な原因遺伝子は特定されていない)



少し大げさな気もしますが、齲蝕に関して5割前後は遺伝で決まる、という記載もあります。



歯周病に関しては発症時期のばらつきが大きいので解析が難しいでしょうが、極端に感受性が高い場合は10代で全ての永久歯が自然脱落して総入れ歯になる、というケースも報告されています。

このように特に歯周病感受性の高い場合、侵襲性歯周炎と呼ばれます。



侵襲性歯周炎は古くは特殊な細菌感染が原因と言われていましたが、現在は否定的な考えが主流で、歯周病感受性が極端に高い場合の発現系であるとみなす方向になっています。

その根拠として、2018年欧州歯周病学会の新分類で侵襲性歯周炎の分類はなくなり年齢に対する骨喪失量から算出した病態進行速度に関する亜分類に統合されました。



これまでも侵襲性歯周炎の治療に関して(特殊な細菌感染であるという仮説に基づく)抗菌薬投与などは治療成績に明らかな違いをもたらしませんでした。

つまり分類・診断しても治療方針に違いをもたらさないため、分類自体をやめるという判断が欧州・米国合同でされたということです。これは妥当なアップデートだと考えています。(病状進行が早い場合は来院間隔を短縮して速やかに歯周外科治療を完遂するという対応をします)



さて話を戻すと、研究ベースでは原因となるSNPsの候補まで上げられていますが、強い相関まで絞り込めていないようです。



実際にはSNPsという単一因子ではなく、実際は唾液の粘稠度やカルシウム含有度、骨格や筋肉の付き方も影響するので、遺伝して決定づけられる様々な先天的な要素が関係すると考えられます。



一見関係ないように見える多要素が複合的原因となるというのは、齲蝕・歯周病だけでなく、癌や糖尿病の分野でも示唆されています。

家族性に現れる疾患であっても、簡単には原因となる遺伝子が特定できないのはそのためです。



もちろん単純なもので既に解明されているものはありますが、話がそれるのでこの程度に。



次回はそれぞれの先天的素因を踏まえた、齲蝕・歯周病予防についてお話したいと思います。