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2021年12月31日金曜日

歯医者だけど虫歯の治療にいってみた

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

12月中旬くらいから奥歯に違和感を感じ、鏡でみたらなんとなく黒っぽかったので15年ぶりくらいに歯医者さんに診てもらうことにしました。

最近育児に原稿に専門医に忙しかったからしかたないよね! と苦しい言い訳をしておきます。

結論として経過観察となりました。

しかし初期虫歯この程度でもこれだけの違和感があるものかと実感したことと、予防について日頃より極めて強い関心・発信をしておられる歯医者さんからみるとこの状態でも経過観察という判断が可能なんだという学びがありました。

また口の中の様々な初期症状について指摘していただき、健診って重要なんだなぁと実感しました。

今回診ていただいたのは日本歯科大学附属病院の加藤智嵩先生です。

1,自分でレントゲンとったりした


12月中旬に半日程度、痛み未満というような違和感があり、帰宅して確認すると奥歯が黒っぽく透けて見えたので、治療が必要な虫歯だろうと確信。

ところが自分のクリニックでレントゲンを(自分で)撮影してみると、エナメル質(歯の表層の硬い部分)にわずかな変化があるだけで、象牙質(歯の内側の痛覚を有する部分)に影響があるようには見えませんでした。

私の判断としてはこのような状態で、口腔衛生状態が良いという条件ならば、フッ化物の使用法を指導した上で経過観察とします。

ただし症状は短期間で治まったもののしばしば繰り返したことから、この判断には正常性バイアスが含まれると自覚したため、客観的な判断に委ねようと考えました。


2,削る気マンマンで準備してた加藤さん


歯を削るドリル(タービン)も用意した状態で待っていた加藤歯科医師ですが、レントゲンを撮影上での診断は経過観察が可能と。以下要点。

・X線診にて象牙質に透過像がない。 
・歯髄に第二象牙質の形成が認められるので、象牙質齲蝕の可能性は高い。 
・透照診にて黒く見えるが、それ自体は確定的な判断材料ではない。 
・症状は治まっており、エアー診や打診にも反応しない。 
・象牙質齲蝕があったとしても重要なのは進行するかどうかなので、齲蝕予防に関する知識が十分であることから経過観察する意義は十分にある。 
・もちろん介入も妥当で、多くの歯科医は介入(歯を削る)と判断してもおかしくない状態。
これを受けて私の判断は、介入治療した場合、治療材料の耐用年数からいずれやり直しになることは必須。非侵襲的対応(歯を削らない)ができるならそれがベスト、と。

ここにインフォームドコンセントが成立し、経過観察することになりました! よかったー。

3,非侵襲的対応が本質である


歯を削らなくてよかったー、で終わらせてはいけません。

虫歯が発生したということは何らかの原因があるということなので、その対応をしなければ初期虫歯は進行し、介入治療が必要になるのは目に見えています。

ようはフッ化物による初期虫歯の進行抑制法で、私も以下のような記事を書いているということで理解はしていますが、患者さんへの説明の仕方や表現方法の参考として勉強になりました。


それだけでなく、自分で気づいていなかった歯肉の問題や、虫歯の予兆のある部分など細かく指摘していただき、やはりどんなに口腔衛生状態に自信があっても数年に1度は検診を受ける必要があるなと実感しました。



患者として受診したのを、病院スタッフにも講座の他の先生にもバレてちと恥ずかしい部分もありますが、それ以上に大変勉強になった良い機会を持てたと感じました。

今後は適切な予防法で経過観察しながら、たまに状態確認をしていこうと思います。

いやー削ることにならなくてホントによかった。

進行予防しきれるか分からんけどこっちもプロ、やってやるぜ。

と、最後に本音を吐露して〆たいと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。

2021年12月27日月曜日

[バンド活動] 百合の咲く場所で

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

世情や私自身の多忙によりなかなかできなかったバンド活動ですが、
忘年会がてらようやく合わせる機会を持てました。

今回の「百合の咲く場所で」は自信作!

この半年で全員レベルアップしてきたように思います。そう、ルフィ海賊団のようにね…!

「Laughter」はまだお試し合わせな感じですが、近いうちにFull verで出したいと思います。



百合の咲く場所で ー Dragon Ash




Laughter ー Official髭男dism



いまのいままで「Official髭男」だとおもってました。ごめんなさい。

2021年12月23日木曜日

短縮歯列の論点整理2

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

短縮歯列第二弾。

前回は補綴系の論文から入ったのですが、勉強会で取り扱った文献の孫引きで出会った、歯周病系のトラディショナルな文献からも少し案を貰おうと思います。



実験系:スウェーデンの大学病院、フォローアップ研究、30年間
母集団:1971-1972に歯周外科治療を含む専門的歯周病治療を受けた550人
介入法:ベースライン時の検査後、来院順に3人に2人をリコール群(375人)、1人を対照群群(180人)に群分けした。リコール群は最初の2年間は2か月毎、3-6年目は3か月毎に、その後は必要に応じて3,6,12か月の間隔で[プラーク染色・機械的歯面清掃]を行った。対照群は歯周組織の状態および口腔衛生の重要性を記した文書とともに紹介元に戻した。対照群は6年目の時点で追跡終了しており、その結果は別の論文に示されている(Axelsson, 1981)。
評価法:歯数,口腔衛生状態,虫歯
結果等:リコール群のうち257人が最終検査を受けた。30年間で173歯が脱落した。これは1人につき0.67本の喪失で、全歯数の2.6%に該当する。
留意点:結果には年齢区分で解析されており、実験開始時で51-65才の群はスタート時点の条件が悪く、脱落率も多い。

筆頭著者アクセルソン、ラストオーサーでリンデという、歯周病分野のレジェンドが出した30年間フォローアップ研究「最終版」。

まずこの論文はリコールを専門医とその衛生士の元でやったか、紹介元に戻したかで群分けし6年間追跡したAxelsson, 1981のうち、専門医で追跡したケースについて30年後の状態をまとめた論文です。

群分けでの結果は下図の通りで、治療開始時は70%程度のPCR(歯みがきスコアで高値ほど状態が悪い)からスタートしています。1970年代から開始された研究ですが、重度歯周病患者の治療開始時のPCRは2021年現在も同じようなものです。
リコール群においてはPCRは10-20%に維持されていることがわかります。これは現在の歯周病治療においても目指すべきところですが、私などはSRP時などではこの水準に到達しますが、SPT時では20-30%になってしまっています。アカンですね。

この研究では紹介元(歯周病専門医ではない)でのリコールにおいて、2年後で既にPCRは60%に後戻りしていることがわかります。50%超えていると虫歯も歯周病もなにが起こってもおかしくないレベルですね。

同様の研究は近年もなされており、Ravald 2012では専門的歯周治療後、一般開業医に戻して11-14年間メンテナンスを行った場合、PCRはメンテナンス開始時に23%だったものが、最終検査時39%まで後戻りしていました。

口腔衛生水準は1970年代から比較すると2000年代でも著しく向上したはずですが、専門医および直接指示を受ける衛生士から離れると後戻りするリスクが高いことがわかりました。

この時全歯数の14%が喪失し、そのうち77%の歯の喪失が27%の患者に集中していたことがわかりました。また一般開業医でのメンテナンスは多いほうが歯の喪失と相関しており、これは状態の悪い患者の来院回数を増やしたが、十分なコントロールができていないことを示しています。Axelssonらが30年間のメインテナンスで歯の喪失が2.6%だったのに比較すると、大きな差が現れています。

Axelsson 1981では6年間専門医によるPCR = 20%を維持したメインテナンスでの歯の喪失は1.0%、紹介元でのPCR = 60%に後戻りしたメインテナンスでの歯の喪失は3.9%でした。


これらから分かるのは歯周病専門医と一般開業医のメンテナンスの違いは、いかに口腔衛生状態の維持にコミットしているかであり、来院のたびにプラーク染色液でPCRを測定しないと意味ないし、PCR = 20% 程度を維持しないと再発しても何ら不思議ではないという事かと思います。

ただ手前味噌ではありますが、PCR = 20%を維持するというのは歯科医と衛生士のチームビルドが十分でなければ実現不可能であり、一朝一夕にできることではありません。

歯科ー歯科連携の考えでは、専門的歯周病治療がおわったらメンテナンスは専門医の申し伝えのもと一般開業医で行う、という形になります。しかし一般開業医でPCR = 20%前後を堅持できる体制になっていないと、戻すことにリスクが生じる可能性があります。



さて話題は短縮歯列から逸れましたが、結果のうち高齢グループ、スタート時点で51-65才の群の平均指数が20本で、これが短縮歯列の歯数を早期させます。

高齢グループ24人の歯の総数は逆算にて482.4本で、そのうち43本が喪失しました。つまり全歯数の9%が喪失しています。

30年経過時点の高齢グループのPCRは20-30%のレンジに収まっており、他のグループと遜色ありません。年齢という変数もあるかもしれませんが、残存歯数は歯の喪失に対して関連している可能性があります。

たとえばLang&Tonetti, 2003では歯周病のリスクアセスメントとして、歯肉出血・5mm
以上の歯周ポケット・喪失歯数・年齢対骨量・全身疾患・喫煙を挙げています。

このアセスメントは智歯を除外し、喪失歯数8歯を上回るとハイリスクと分類されます。

つまり残存歯数20歯未満の場合はハイリスクであると言い換えることもできます。

ただしこれを短縮歯列に落とし込むと、Lang&Tonettiのリスクアセスメントは歯種を指定しておらず、義歯を使っているかどうかも言及されていないので、直接的な関係性は薄いと考えられます。

一方でこのアセスメントの文中にはWitterやKayserなど、短縮歯列分野での主要な研究者の名前も挙がっており、短縮歯列に関する先行論文を熟知した上で記述されたと考えてよさそうです。

2021年12月20日月曜日

生徒のモチベーションが上がった!? 小学校検診で新たな取り組み

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

先週戸塚東小の歯科検診にいってきました。本年度はコロナの影響でやや変則的なスケジュールですね。

それに先立っていつもどおり前日に小学校からお電話をいただいたのですが、そこで新しい取り組みを提案されました。

私も「おもしろい」と感じた取り組みは…


プラークコントロールが良好だった生徒に、「上手にみがている」と伝え、記録をとるというものです。


従来著しくプラークコントロールが悪い生徒に関しては、虫歯リスクが高いことから「歯垢・歯石が付着している」と記録し、それは健診結果として保護者さんにもお伝えしてきました。

一方である程度歯みがきができていればそれは記録に取ることもなく、「良かった」ことに関する生徒や保護者へのフィードバックはありませんでした。


振り返ってみれば我々も日常的に健診・歯石取りでの歯科受診を薦めており、プラークコントロールが良好な方にはそれをお伝えする「正のモチベーション」を活用してきました。

悪いと罰があるという「負のモチベーション」は強い行動変容力を持ちますが長続きしないと言われています。一方で良かったものが褒められる正のモチベーションは長続きすると言われています。

なによりも「歯みがき上手できてます」と伝えると、多くの生徒たちが嬉しそうにしているのが印象的でした。

従来歯科検診にこのようなコミュニケーションはなかったので、子供たちの口腔衛生の向上に良い影響をあたえる可能性を感じました。



この取り組みを実施するにあたって、学校通信や校内放送で歯みがきを頑張ってくるようアナウンスするという事前の活動があったようです。

中にはプラーク染め出し液を使ってブラッシングしてきただろうと思われる生徒もおり、保護者も巻き込んだ大きなアクションになったと感じます。

集計結果は届いていないので体感ベースですが、1年生は6割程度、2年生は4割程度が「上手なはみがき」ができていたように感じます。

高学年は他の学校歯科医の担当でしたが、この割合はさらに低下するようでした。

やはり入学を機に歯みがきを子供の自主性に任せる保護者が多いのだろうと思います。歯の生え変わりもあって小学校高学年が最も歯みがき習慣が乱れやすいということは以前から知られていました。

理想的には10~12才の、歯の生え変わりが終わるまでは保護者の仕上げみがきが必要と言われていますが、なかなか難しいのではないでしょうか。現実としては週に1回でも、保護者が子供の歯みがきの状態をチェックし、関心があると伝えることから始めるのがよいのではと思います。

その際、揺れている歯、生えたばかりの歯へのブラッシングは子供自身にとってもどう扱えばいいのかわからず、ブラッシングが疎かになりがちだと心得ておきましょう。どんどん歯並びが変化するので、それに応じたブラッシングが必要で、最も難しい時期であるのは確かです。

ブラッシング方法について分からなかったら、いつでもかかりつけの歯医者さんに相談してみてください。

2021年12月16日木曜日

奥歯がなくても大丈夫!? 短縮歯列という選択肢

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

長らく、歯を失ったら何らかの方法で補わなければならない、というのが常識になってきたかと思います。

これは歯科医療が十分に供給されていなかった昭和初期から中期にかけて、歯が抜けても放置している方が多く、結果として回復不可能な病的な歯の移動を招いてきたことに対する、分かりやすい啓発メッセージだったと思います。

一方この20年間で日本における口腔衛生は著しく改善し、一般的には抜ける以前から歯科治療を受けている場合が多くなってきました。

そこで近年出会うのが、その歯は抜きっぱなしで補う必要はなく、場合によってはそれがベストの選択肢であるということをお話すると、驚かれかえって不安を感じられてしまうケースです。

条件が合致すれば、失った歯を必ずしも補わなくても良いというコンセプトは、2020年頃から浸透してきた短縮歯列(SDA:Shortened Dental Arch Concept)という考え方に基づいています。

これは特段マイナーなものではなく、日本補綴歯科学会という人工の歯や入れ歯による咬合機能回復に関する学会のガイドラインでも取り上げられている、明らかなエビデンスがある方法です。

その中では短縮歯列の条件に合致するならば、入れ歯を使っても使わなくても同等のQoLを得られるとされています。(下記リンクP.82)

(参考)
その条件とは、ブリッジのダミーを含めて中間歯欠損がなく、上下10本の歯で咬合していることです。

具体的には全ての大臼歯がなくても、それ以外の歯がしっかり並んでいればOK。

特に親知らずを除外して、一番奥の歯(第二大臼歯)がなくなったとしても、それをインプラントやブリッジで補う必要は必ずしもないということです。

逆に1番奥が残っていて、奥から2番目を失ったなどといった、中抜けの場合は短縮歯列のコンセプトに該当しません。これは抜けた部分より奥の歯が前方へ傾斜してくるため、好ましい状態ではありません。

これらの条件判断は困難で、歯医者の間でも意見が分かれます。自己判断ではなく歯医者と情報交換する中でしっかりとリスクを把握した上で、適応の可否を見極めていくことが重要です。

以上を踏まえた上で、短縮歯列の考え方は治療計画の単純化と、治療に関わる患者さんの肉体精神的・金銭的コスト軽減に有用だと考えています。

そこで気になるのは短縮歯列はどういった条件で実施可能であるかという部分です。

これはシステマティックレビューでははっきりしないので、個々の文献を比較していこうと思います。専門・非専門問わず、コメントがありましたらツイッターやフェイスブックでお寄せいただければ幸いです。


Periodontal health in shortened dental arches: A 10-year RCT.
Walter MH, et al. J Prosthodont Res. 2020. PMID: 32063531 Clinical Trial.

研究デザイン:多施設研究・ランダム化比較試験、10年間
母集団:両側に犬歯と1本以上の小臼歯が存在する臼歯部欠損。平均歯数15本。50才前後の150人
群分け:義歯群と短縮歯列群。短縮歯列群で第二小臼歯を欠損している場合は延長ブリッジで補う
評価:CAL,BoP,PlI(歯周組織と口腔衛生の指標)
結果:両群間で10年間の歯周組織変化に差は認められない。プラークコントロールは義歯群で悪化
留意点:BoP平均20%と高値

最も新しく、クオリティも高い論文です。義歯79:短縮歯列71というのはITT(脱落時点までの結果を含む解析)であり、PP(10年間観察できた者)では義歯25:短縮歯列22です。

癌のような命に係わる疾患のフォローアップに比べ、歯科分野で脱落率が高いのは仕方のないことではあります。

短縮歯列の条件としては両側に犬歯と小臼歯が1本ずつあること。これは確認したなかで最も古いKayser(1981)の論文にで、短縮歯列の最低条件に上下顎で小臼歯4本の咬合があることと条件づけたことと相違します。

臨床を鑑みると犬歯の果たす役割は大きく、保険ブリッジの適応条件に関しても犬歯の有無が極めて重要なことからも、本論文の条件の方が納得がいきます。Kaiserはそもそも犬歯は評価に入れていませんでした。この変化がどういう時系列で起こったのかは気になりました。

短縮歯列が10年間でどの程度維持不能になったかが気になったのですが、この論文では10年間の追跡で咬合の問題か臼歯の喪失で義歯に切り替わったのは3名と記されています。ただしこの中にはドロップアウトした者は含まれていません。10年間で7割がドロップアウトする本論文では情報に限界があります。

本論文の歯周病学的データについては若干の疑問があります。BOP,PlIともに6点法で測定し、PlIは3,4をプラーク付着部位と判定し歯面で除算。

BoPは歯周病分野の論文では、メンテナンスフェイズでは10%以下であることが多いです。本論文では短縮歯列のパープロトコル解析というもっとも成績のいいグループでもBoPは20%代で、そこそこ歯肉の炎症が存在する状態であるように見られます。なお専門的歯周病治療をする場合のBoPは30%以上であることがほとんどです。

これを理解するためにPlIに目を向けてみると20%-40%程度で推移していることがわかります。本論文の測定法はPlI=1はネガティブと判断するので、歯周病分野の論文で一般的に用いられるO’Learyのプラークコントロールレコードよりも判定基準が甘く、それがBoP高値につながったものと推察されます。

実施主体が歯周病の専門家ではなく、母集団も歯周病患者と定められているわけではないので、プロトコルに万全を期すというより臨床実態を推察して読み進めるのが、他科論文を読む際には重要かと思います。



Cost-effectiveness of tooth replacement strategies for partially dentate elderly: a randomized controlled clinical trial.
McKenna G, Allen F, Woods N, O'Mahony D, Cronin M, DaMata C, Normand C.Community Dent Oral Epidemiol. 2014 Aug;42(4):366-74.

研究デザイン:ランダマイズド比較試験、12か月
母集団:片顎に6本以上の予後良好な歯がある、平均年齢70才、92人
群分け:義歯群と短縮歯列群。義歯はコバルトクロム床で完全な歯列へと補綴。短縮歯列群は接着ブリッジで片顎10本とした
評価:OHIP-14(口腔関連QoL簡易指標)、€(治療費)
結果:両群で同等のQoLだった。治療費対効果は短縮歯列のほうが1.84倍高かった
留意点:脱落率30%、コバルトクロム床 VS 接着ブリッジの比較

この論文の組み入れ基準は片顎につき6本以上の歯があるということで、Kayser(1981)やWalter(2020)とはまた違ったもの。とはいえMckennaらのチームは短縮歯列とQoLに関する論文を複数発表しており、一つのスタンダードな基準といってもいいかもしれません。

Kayserは前歯の状況は論じておらず、Walterは最低4本で成立する条件なので、McKennaの条件は最も厳しい条件と言えるかもしれません。条件が厳しいという事は良好な結果を得やすいということでもあります。Kayserは前歯のみのケース、片側の小臼歯でしかバーティカルストップがないケースでは歯列の維持は困難になると分析しています。

結果としては治療費対効果は短縮歯列のほうが良いとしていますが、これには少し注意が必要です。まず義歯グループで採用しているコバルトクロム床は日本では保険外の金属床義歯と一般呼称されるもので、高額な義歯です。というより論文ベースでは日本における保険適応のレジン床義歯が妥協の産物といえるので、McKennaがあえて高額な義歯を選んだというわけではなく、義歯補綴のスタンダードに準じただけといえます。

一方で本論文の短縮歯列グループで採用している接着ブリッジは、日本における保険適応の金属冠ブリッジよりもコストの小さい方法です。しかしこれもまた論文上では金属冠ブリッジよりも接着ブリッジで歯質削減量を低減するのが第一選択という原則にのっとっただけなので、McKennaがことさら短縮歯列の治療費対効果を高いものにする恣意的な目的があったと言い切ることはできません。

以上から日本の保険制度という「世界からみると特殊な環境」に基づくと治療費対効果は参考になりませんが、義歯グループと短縮歯列グループのQoLに相違がなかったというのは普遍的な事実であり、義歯を作るか作らないかというだけの判断であれば当然作らないほうが治療費対効果が高いので、そのように判断すれば良いのではないかと思います。



短縮歯列に関してはすごく興味深いので、今後も連載企画として論文ベースで情報をまとめていきたいと思います。
繰り返しになりますがSNS等でコメントいただければ幸いです。

余談ですが有名な80才で20本の歯を維持しようという8020運動も、仮に中間欠損がなければ20本丁度で短縮歯列になるので、そういう意味も含まれているのかなと思います。

2021年12月13日月曜日

師ではないですけど走ってます

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

年末ということもあり大勢のご来院ありがとうございます。

スタッフ一同腰が痛い足が浮腫むとこぼしながらガンバっております。

とはいうものの入れ歯づくり、差し歯作りなどの技工過程のある治療は、工期的物理的に年内に間に合わせるのが難しい時期となってきています。

ここから先は年越しで痛まないように、なんとか応急処置的に安定した状態を得る治療になってくると思います。

1,痛みがある場合は差し歯入れ歯が間に合わなくても、痛みを制御するために遠慮なく受診。

2,痛みがなく特に急ぐ必要性がない場合は年明けから行動開始

3,迷うなら来院か電話で歯科医に確認

という判断基準でよろしくお願いします。


さて私事ですが、そんな忙しい中でも、次々と襲い掛かる締め切りをなんとか乗り越えています。

そんななか公開になった記事がデイリー1位、ウィークリー4位と大ヒット。

今回はPVがのびるというより、しっかりロジックをまとめようという記事だったので、意外なヒットに喜んでます。



大学の勉強会ではシステマティックレビューをつくるチームにはいったのですが、やたらやる気のあるメンバーが揃って負担のさせかたが容赦ない…。

ただ現役大学院生のエースとの絡みということもあり、大変勉強になっています。システマティックレビューの実施手順への解釈や、個々の論文のバイアス評価というところで詰めていく作業は楽しいです。


他、歯科医師会の提出資料など終わらせて、とりあえず次の締め切りは月末、という状況まで落ち着いてきました。

今後3月の専門医プレゼン試験が終わるまでは忙しい日々が続きそうです。


2021年12月9日木曜日

綱渡りスケジュール進行中!

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

無事専門医申請書類を提出し終えたわけですが、それにフルコミットするために先延ばしにしていた書き仕事の締め切りが波状攻撃を仕掛けてきています。

その上年末ということで、だれもが平穏無事に年越ししたいと思う中、歯の不安を抱える方が大挙してご来院頂いているため、毎日が全力疾走状態です。

診療の合間を縫って昨日は歯科医師会関連の締め切りギリギリを滑り込ませ。

今日はサキシル原稿を詰めました。予備原稿の話題が古くなりすぎる前での放出のつもりが、なぜか関連するテーマで世の中がもりあがったおかげでホットなテーマになりそうです。

結局半分近くリライト。資料は整っていたから作業は早く終わりましたが…。いやぁ、我ながらよくこれだけ集めたなぁという資料でした。(積極的に自画自賛していく生き方)

そしてその後には論文関係の締め切り。

その後は勉強会のシステマティックレビューの効果量抽出の締め切り。

その後は勉強会のリターチャーレビューの構造化抄読の締め切り。

その後は専門医試験の予演会ともなる勉強会の症例発表の本番。

その後は来月サキシルの締め切り。


た す け て …

2021年12月4日土曜日

[完全燃焼] 歯周病専門医新規申請提出しました [バーンアウト]

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

本日、歯周病学会専門医新規申請書類を提出しました。

大学学部長というお忙しい立場である中しっかり資料を確認し、適切なアドバイスを下さった沼部教授に甚謝いたします。

全部で100ページを超える超ヘビー級の書類作成もこれで完了。

完全燃焼、燃えカスも残らないバーンアウトです。心は燃えて燃え尽きた。母上の姿がみえる。(*母は元気に生きてます)


この後は1月に書類審査、3月にケースプレゼンテーションでの試験、5月に合格発表という流れになっています。

4人に1人は合格できないので一発で通るかは分かりませんが、なんとか食らいついて見せたい所存です。日本歯科専門医機構の方針で、合格率は上昇傾向との情報もありますが、1分の隙も禁物だと考えています。

さしあたって歯周病学講座の勉強会で2月に症例発表会を設けていただいたので、これを予演会ととらえてケースプレゼンテーション資料をまとめていきたいと思います。

俺たちの戦いはこれからだ!



…しかしこのケープレに選んだ症例(申請で10症例提出中、1症例をケープレ試験)、攻めに攻めたというか…

「自分でもよく義歯を回避して治療しきったな」と誇らしく思う反面、「無難からはかけ離れた症例」でもありまして…

専門医試験官として症例を見慣れた関野先生にとっては興味深いケースなのかもしれませんが、マジでこれでいくんですか? 沼部教授も「やっぱこれがイイね」というもんで、ノリノリで提出しちゃったからもう後戻りできませんが!



2月の症例発表会、血祭になる未来しか予想できませんが…。

まぁ、血祭になるのは慣れている!(←いつも無難な発表テーマを選ばないドM)