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2019年7月25日木曜日

市販薬に移行するホワイトニング

患者さんが市販のホワイトニングを試すという話を聞いて、興味深い情報交換ができたので論考します。



昔はホワイトニングは歯科医師の専売だったのですが、次第に美容室やイベントブースなどで実施されることが多くなり、次第に歯科医師の手を離れている印象があります。



確かに歯科医院でホワイトニングをすると高くなります。

料金の根拠として、安全に実施するための諸注意や、トラブルが発生したときの速やかな対応などを目的としていますので、歯科医院のホワイトニングの料金は妥当だと思います。



しかし近年メーカーの努力もあり、以前より安全性の高い商品が使用できるようになりました。

この状況であれば、患者自身が相応のリスクを認識した上であれば、安価にホワイトニングをするという選択肢があってもいいと考えています。

ちょうど、ピアスの穴開けが皮膚科で衛生的にやってもらうのと、市販のピアッサーで感染リスクを負って自分でやる選択肢があるのと、同様の構図であると思います。



また市販製品の価格に引っ張られる形で、薬剤の安全性の向上による歯科医師の精神的負担軽減も手伝い、ホワイトニングの価格は10年ほど前は最大で10万円近くする場合もあったのが、ここ数年で2万円前後まで安くなりました。

美容目的であれ、より多くの人が歯医者さんと関わる機会が増えるというのは、公衆衛生の観点からも良いことだと思います。



さてここで重要になってくるのは、ホワイトニングのリスクを十分に把握しているのかという点です。

本来はホワイトニングを実施する人だけが聞ける情報を、一部ご紹介しようと思います。





1、ほんとうにホワイトニングは必要なのか


多くの人はホワイトニングとヤニ取りを混同しています。

歯の表面に付着した茶渋・ステイン・ヤニなどは、超音波スケーラーという道具で除去することができます。



こうして付着物によるクスミを除去して歯が本来もつ色合いを取り戻すと、それなりに「白くなった」と実感する人が多いようです。



また、この処置は虫歯・歯周病予防の観点からも良いもので、定期的に歯の沈着物を除去しに歯科医院に行くのは、健康維持に好ましいことと思います。



一方ホワイトニングとは、髪の毛を脱色して金髪にするように、歯を漂白して白くする処置です。

ヤニとりでは歯が本来持つ色合いよりも白くなることはないので、もともとの歯が黄ばんでいる人や、一般的なヒトの持つ歯の色よりももっと白いのを目指したい人は実施することになります。



しかし、この漂白=ホワイトニングは、体にはどちらかというとダメージになります。

先ほど毛髪を脱色して金髪にする例を出しましたが、薬剤自体にトリートメントが入ってダメージ軽減を図られていますが、やはり毛髪には幾分かダメージがあり、少しパサつくでしょう。

それと同じイメージをもちましょう。



具体的には、ホワイトニングした後は知覚過敏症などが出る可能性があります。

ホワイトニングをすることは体にダメージをあたえるもので、健康を得るものではありません。



とはいえ、今時のほとんどの人は若いころに毛髪の脱色を経験していると思いますが、市販薬でやっても頭皮がピリピリして髪が多少パサつく程度で、大きな問題はなく目的達成できたと思います。



以上から、必ずしも市販薬のホワイトニングは歯科医師が関与しないから危険だというつもりはありません。

ただ、毛髪は本数が多くて一時的に抜けても生えてくるのですが、歯は最大で32本しかなくて知覚過敏症が重症になると歯の神経をとらないといけなくなる可能性がある、ということは知っておくべきだと思います。





2、歯科医院で使用するものより、高い薬液濃度のものが入手できる


さて、今回市販薬として知ったのは「オパールエッセンス」という商品で、ネット上で海外直輸入できます。

推奨しないのでリンクは張りません)

この材料を調べて見ると、歯科医院で使用するホワイトニング剤の倍以上の濃度のものが市販されていることが分かります。



歯科医院で実施するホワイトニングにも2種類あって、歯科医師がクリニックで患者に使用する濃度の高いジェル(オフィスホワイトニング)と、歯科医師が患者に指導して患者自身が自宅で使用する濃度の低いジェル(ホームホワイトニング)があります。



歯科医師が実施するのではなく、患者自身で使用するのでカテゴリとしては濃度の低いジェル(ホームホワイトニング)を処方するものとなります。



従来、ホワイトニングは漂白剤による歯肉荒れ知覚過敏症などとの戦いの歴史があるので、いかにそのような副作用を抑えるか、薬液の化学式や濃度を長い間工夫してきています。

当然自宅で使用するものに関しては安全性の観点から、濃度が低いものになるのは妥当性があるとおもいます。



しかしオパールエッセンスという商品は濃度を自分で選ぶことができて、最高濃度の商品は、濃度の高く歯科医師主導で実施するオフィスホワイトニングと同等かそれ以上の、高い濃度のラインナップをもつホームホワイトニング剤です。



この商品の販売が法的に問題あるかはわかりませんし、差し当たって調べるつもりはありません。仮に問題がないとすれば自己責任で使用するのは構わないと思います。



しかし単純に脱色期間を短くしようと最高濃度の商品を使用すると、知覚過敏症の発現や歯肉のただれの原因になる可能性が「高め」であることは、使用者が知っておくべき情報だと思います。



全ての医療行為にはメリットと同時に、何らかのリスクがあります。

ノーリスクを目指して安全性を謳うのは現実的ではないと考えております。



しかし、ユーザーは自分の取ろうとしているリスクを正確に把握しておくことは重要で、そうなるようにルールを整備する必要はあると考えております。




東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之

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2019年7月18日木曜日

歯肉の炎症を抑える歯みがき粉の功罪

昔からテレビCMなどでよく見かける「歯周病用歯みがき粉」。

最近ではネット広告などでも積極的に売り出しています。

それだけ歯周病の初期症状を自覚している人が多くなってきている、高齢化社会の売れ筋商品なのかなと感じています。

実際、歯周病治療を開始するときに、「今使用している」もしくは「使用したほうが良いのか」と質問を受けることは多いです。



しかし私はこの「歯周病用歯みがき粉」、もう少しメーカーは正確な情報を伝えてほしいなと、腑に落ちない思いを抱いています。






1、歯みがき粉の薬効成分は一時しのぎに過ぎない




歯みがき粉の成分と、それに対応する広告表現については下記のリンクの通り制限されています。

https://www.hamigaki.gr.jp/hamigaki1/kiyaku_01.html



では「医薬品」とか「薬効成分配合」とか書いてあれば確実な効果があるのでしょうか。

効果はあります

しかしその効果は、ほとんどの歯周病用歯みがき粉の場合、抗炎症作用だということが注意すべきポイントです。



抗炎症作用というのは、炎症(腫れ、出血、痛み、赤みなど)を抑える効果です。

歯周病の症状としてこの炎症が抑えられれば、自覚症状としては治ったように感じるでしょう。

しかしそれは一時的に、表面的にでしかありません。






2、歯周病は、どう考えても歯科医師にしか治せない


歯周病の根本の問題は歯肉の奥深くに潜り込んだ歯石です。

これは歯科医院で麻酔をかけてとる以外はありません。



想像してみてください。正常な歯周ポケットは2ミリなので、ちょうど爪と指先と同じ程度の溝です。

この程度ならば、ブラシをかければ奥まできれいになりそうですよね。汚れがこびりついていてもなんとか自分で除去できそうです。



しかし、この溝が6ミリとか8ミリだったら。しかも指はジュクジュクに炎症を起こしていて、汚れ(感染源)は爪の裏側に付着して、石のように硬かったら!

明らかに自分で清潔にするのは不可能でしょう。



歯周病とはこのような状態です。

抗炎症作用によって症状を緩和するのは、感染源である歯肉深く潜り込んだ歯石を放置したまま、痛みと腫れをお薬の作用で抑えているだけということです。



当然、感染源はそのまま存在するので、日に日に病状は進行しますし、いつかお薬では抑えきれなくなります

もちろん抗炎症薬のみで歯周病が治癒することは、理論上ありえません。

抗炎症薬だけでなく、細菌を死滅させる抗生物質を併用したとしても、歯石をそのままにしているのでは歯周病は治らないことは、長年の研究で既に分かっています。





3、歯周病の早期治療の機会を逃してしまう


歯周病は早期に適切な歯科医院で治療できれば、ほとんどのケースで治すことができます。

参考:歯周病学会専門医・認定医



私が危惧しているのは、せっかく出血や歯肉の腫れといった歯周病の初期症状を、体からのメッセージとして認識したのに、歯みがき粉の抗炎症作用でごまかし治療を先延ばしにすることで、治るはずだった歯周病が治らないとこまで進行した、抜かなくて済むはずの歯が抜くしかなくなってしまった、ということが起こりうるのではないか、ということです。



とはいうものの、仕事や家庭の事情から歯科医院にすぐいけない、継続して通えないという方も多いと思います。

そういう場合に、「中継ぎとしての歯周病用歯みがき粉」はアリだと思っています。

抗炎症作用によって歯肉の痛みなどが改善し、日常生活が楽になるならば、短期的には悪くない処置だと思っています。



私がメーカーに提案したいのは、歯みがき粉で治ると誤解させるような表現を避け、あくまで一時的な改善が効果があるもので、機会を見てその後に歯科医院を受診することを奨めるメッセージを打ち出してはどうかということです。



SNSで情報はあっというまに広がる世の中です。メーカーにとっても、患者を適切な医療につなげるメッセージを発信するのは、メーカーと消費者の信頼関係、メーカーと医療従事者の信頼関係のためにも、重要であるのではないかと思います。



東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之

2019年7月2日火曜日

科学だけでなく、医療も葬式のたびに進歩する。

という言葉にであったので、なかなか面白いと思ったので考察します。



実はこの現象は医療現場でも大きな問題で、例えば「風邪に抗生物質は無効」というのは誰もが知っているのに未だに抗生物質の処方は止まりません。

これは抗生物質が万能治療薬のように投与されていた時代に生きた一般の人たちにとって、あるとき突然抗生物質が投与されなくなると驚くからです。

そして「あの医者はケチかヤブだ」という評価になってしまうと困るので、医師もなんとなく抗生物質を処方し続けます。

抗生物質の乱用は耐性菌を生み出し、いま抗生物質で解決できる溶連菌などの疾患も解決できなくなり、同時に大きな手術も感染症リスクが増大すると実施不可能になり、人類に大打撃を与えるという事実は知っているのに、未来の話だから「とりあえず今は」みなかったことにされます。



これは抜歯も同じで、今は「特に理由がなければ抗生物質は処方しない」「血液サラサラの薬を飲んでいても中止しない」というのがスタンダードですが、それとは真逆の時代(たった20年くらい前)に現役だった歯科医師はそれまでのやり方を変えないでしょう。

とはいえ、彼らに悪気があるとは思いませんし、その一事で批判するのも避けてほしいと思います。彼らの信じる危機感や正義感に基づいてのことなので、最終的に治癒していれば問題ないと思います。ただ時代が変わってしまったと…。





1、情報は常に進歩するので、考え方は変えなければならない


最近、「ビスフォスファネート製剤も中止しないで抜歯する」というのが3年程前にガイドラインで決まったという情報を聞いたのですが、どう解釈したらいいか悩んでいます。



https://academy.doctorbook.jp/columns/MRONJ2#



今のところ休薬してもらっていますが、私は新しいガイドラインが適切な機関から適切な方法で発表されれば、それに従うつもりです。



新しい情報がもたらされたら、それまで信じてきたものを「変える」のが正しい理性だと思います。



それはなかなかできることがないから、医療も葬式が重なって構成員が新陳代謝しないと進展しないのかもしれません。

しかし、そうならないように、正しい知識をがんばって普及することこそ重要だと思います。

なお、科学は葬式のたびに進歩する、というのはマックスプランクの言葉だそうです。
http://flipoutcircuits.blogspot.com/2018/03/blog-post_12.html





2、歯科で昔の常識が変わってしまったものリスト


・フロス オア ダイ

フロスを使用しないと虫歯や歯周病になって死ぬ、というアメリカ発の有名なキャッチコピーです。

実際には「特に必要なければ」歯ブラシだけで十分死ぬまで予防できます。
また、歯周病患者はフロスを使うよりも歯間ブラシを使うべきです。フロスは非常に適正使用の難しいツールなので、使用を指示するのは必要最小限にとどめるべきです。



・歯磨き粉をつけずに磨く

以前は予防のためにプラークを徹底的に除去する必要があると考えられていました。

しかし現在はプラーク完全除去を目指しても虫歯発生率低下に寄与せず、フッ素の使用のみが虫歯発生率低下に関係することが分かっています。

つまり、歯周病患者以外は、「人並み」のブラッシングと、適正量のフッ素いり歯みがき粉(意外と多め)を使用し、3分以内でブラッシングして口をゆすがないのが最適解です。

フッ素入り歯磨き粉を減量すると、口腔内フッ素濃度に敏感なフッ素による虫歯予防効果が発揮されなくなるので、全ての虫歯予防の努力が無駄になります。

なお歯周病患者は少なくとも治療期間中は「厳密な」プラークコントロールが必要なので、条件分けして考えるのが適切です。



・ENAP
10年以上だれもやってません。教科書から消していいはずです。

アマルガムは口の中に残ってたりするので、知識として知っている必要はあるでしょう。

しかし、軟組織の手術法であるENAPは、実施したかどうかは重要ではないので知っておく必要からしてありません。



・楔状欠損はブラッシング圧だ

側方運動によるアブフラクションというのが主流ですよね。

もちろん過剰ブラッシング圧はチェックすべきだと思いますが、それを防止するために縦磨きに変更させるのは本末転倒だと思います。パームグリップをペングリップにかえるか、毛の硬さを変えればいいだけです。



・大臼歯補綴
特に(上顎)第二大臼歯補綴に関して。カンチレバーブリッジを入れることで第一大臼歯のリスクを高め、その効果として対合歯が伸びるのを防止するとあります。

しかし私は対合歯の使っているかどうかも定かでない第二大臼歯よりも、患側の第一大臼歯のリスクを最小限にするほうが重要だと思います。それがなくなると義歯になりますので。

短縮歯列弓について、歯の寿命や顎関節症との関係は根拠不明確です。





東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之