今回は特に若手歯医者・衛生士さんに読んでもらいたい内容です。そうでない一般の方々も、急な歯の痛みへの対応のしかたに関して参考になると思うので、是非お読みください。
今回扱うのは「今治水」、読み方はコンジスイというお薬です。
歯が痛くなって薬局に駆け込むと、まずは強力な痛み止めが出されます。それでも効果が出ない場合は、こちらのお薬が出されるかもしれません。
知る人ぞ知る、というマニア向けのお薬なので、歯医者や薬剤師が知らなくても不思議ではありません。学校では習わないやつです。
その効果はというと、痛み止まります。
どのくらい止まるかというと、歯の神経が虫歯菌に汚染され死んで感覚を失うまで、痛みなしで過ごせる程度ききます。
副作用として口の中ビリビリしますが、使っちゃダメなわけではありません。
歯の神経が死ぬと痛くなくなり、自覚症状としては「治った!」と感じる人もいるかもしれませんが、腐った歯からバイキンが顎骨の中に侵入し始めるので、ほっとくとヤバイです。
次に同じ歯から痛みが出た時は、今治水効きません。
なにやらすごい感は伝わったでしょうか。それでは解説していこうと思います。
今治水の主成分はキャンフェニック処方と言われています。これは歯医者の間ではCCと呼ばれているもので、学術的な一般名としてはフェノールカンフル。その効果は歯髄炎の鎮静・鎮痛となっています。
(参考)
効果について解説すると、歯の中には神経が通っていてそこが痛みを感知します。
フェノールカンフルは歯の神経の痛みを強力に抑え込みます。これは歯髄鎮静療法といって、最近あんまり流行りじゃないんですが歯医者さんでもやります。私は好きです。
今治水はこれと同じ成分、同じ作用があります。実はセイロガン(クレオソート)にも同様の効果があるので、「歯痛にはセイロガンを詰めろ」という民間療法はあながち間違いではありません。
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しかし歯の神経が痛いという事は当然原因となる虫歯があるわけです。今治水によって歯の痛みは制御できたとしても、虫歯の進行はとまりません。
最終的に歯の神経が完全に虫歯のバイキンに汚染されて死んでしまえば、歯の痛みは一度とまります。
しかし虫歯のバイキンはさらに奥へ、歯の先端から、顎骨の中へと侵攻を続けていきます。そうすると歯の根の先端で化膿していくことになり、再度痛みが発生します。
これは歯の神経の痛みではないので今治水は効かないですし、放置すると骨が腐って手術が必要になり、顔に後遺症が残る可能性まであります。
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私はこれまで3名、今治水を使い続けて、根の化膿に至り、重度の腫れと痛みに至ったケースを見ています。
これらの方々は日常生活が忙しく、睡眠時間を削ってようやく来院したなどという共通した背景をもっておられました。
歯医者に通う時間的・精神的余裕がないため、短時間での対応ができる薬局に駆け込んだのでしょう。
薬局でも歯科受診は勧奨しただろうと思います。それでも「今忙しいからとりあえず歯痛をなんとかしてほしい」という訴えに対し、今治水を出す。理解できます。
私には老々介護問題や長時間労働に関してできることは限られていますが、せめて情報発信していく中で、少しでも注意喚起をしていければ考えております。
どんなキッカケがあるかは分かりません。たぶんそれらの方々はこのブログを目にしません。皆さんが関わる人たちで、もしかしたらとおもったら、ほんの少しの優しさをもって、歯医者に行く後押しをしてあげるということが、あったらいいなぁなどと楽観的に考えております。