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2021年4月28日水曜日

部分入れ歯は歯を失う原因になるか

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

ツイッターでご質問いただいた標題の件について、調べて見ました。

先ず論文検索はPubMedで下記の検索式を使用しました。


論文全文を読める環境ではないので、アブストラクトだけで評価します。それが理由で不正確な部分もあると思うのでご指摘ください。

それでは検索式によってディテクションされた33件の論文の中で、関連性が強そうな文献を紹介していきます。なお文献数が少なかったため、論文検索対象期間の制限はなくしました。



1990年の論文。53人に対して片方にブリッジ補綴、もうかたほうに部分床義歯補綴をし5年間経過を追ったランダム化比較研究です。

患者は口腔衛生指導を受けており、齲蝕、歯周病の検査を受けています。

結果、歯周病の悪化はなかったが、部分床義歯の場合6倍虫歯になりやすかったこと。部分床義歯の場合のみ、咬合能力および機能の低下があったとされています。

私の解釈としては、ブリッジ修復をした場合、口腔内は歯の連結などで複雑になって一般的には虫歯になりやすくなると言われていますが、部分床義歯は歯の形の変更は最小限にも関わらず、より多くのう蝕が発生したのは注目に値します。

ただし、論文を詳細に読み解く必要があると感じたのは、ブリッジを作成するにあたってかなり歯を削るので、その過程で虫歯の「予防的治療」が結果的になされた可能性を検証したほうがいいかもしれません。



2010年の論文。Short Dental Arch(短縮歯列弓)とは日本においてはマイナーな選択肢ですが、すごく乱暴に表現すると奥歯を抜けたままにすることを意味しています。

もう少し表現すると第二小臼歯までの両側の咬合支持があることで、慎重な経過観察を要するものの、機能的な低下はわずかであり、二次的な破壊的な口腔機能の喪失にも繋がらないという考え方です。私はこの考え方は結構好きなので、臨床においても患者さんのニーズをよくくみ取ったうえで採用することが多いです。

この研究はこのように短縮歯列弓を採用した場合と、部分床義歯を入れた場合の歯の喪失について比較しました。215人を対象として、おそらくランダムではなく短縮歯列弓群と部分床義歯群にわけました。

38か月後の結果としてはカプランマイヤーの生存率分析で、部分床義歯が0.83 (95% CI: 0.74-0.91)、短縮歯列弓が0.86 (95% CI: 0.78-0.95)でした。この2群間での有意差はなかったと結論付けています。

私の解釈としては、まず短縮歯列弓は今後も自信をもって採用していきたいと思います。少数歯欠損において必ずしも小さな部分床義歯は必要ありません。

また、今回はひとつ前の論文と条件が違い、どちらも歯をほとんど削っていません。ひとつ前の論文も「歯を失ったか」ではなく「虫歯になったのは6倍」という結論なので、主となる評価項目が違います。

よって、こちらの論文のほうがより部分床義歯単体の悪影響を見ていると解釈しています。部分床義歯の生存率のほうが中央値で0.03成績が悪いのですが、レンジが0.17あるので、有意差が見られなかったという結論にも違和感がありません。



2020年の文献で、論文検索ではひっかからず、ツイッターで別の歯科医師から教えてもらいました。こちらは全文が読めます。

35才以上の150名を対象としたマルチセンタースタディで、一部をランダム割付しているようです。一方は部分床義歯、もう一方は短縮歯列弓と最低限のブリッジを行ったようです。

結果として、部分床義歯群では有意なアタッチメントロスが起こっていました。

この状況を分析するために口腔衛生状態の指標に目を向けると、Silness and LöeのPlIで行われたとされています。これは普通は0~3のスコアで、それの平均値で患者の状態を表現します。この論文では4面を測定したとありますので、O'Learyのプラークコントロールレコードとの折衷のようなオリジナル測定をしています。PlIをどのように%という結果に落とし込んだのはわかりませんが、少なくともO'Learyではないので、20%ならば良好、という解釈ができないのではないかなと思います。

その証拠にBOPが総じて25%以上とあまりよくありません。BoPは歯周病治療の結果10~20%程度になるはずなので、部分床義歯群が時間経過とともに悪化して35%を超えてくるというのは、けっこう悪い状態です。またこれはO'LearyのPCRの場合35%程度ならばもっとBoPは少ないはずなので、やはりこの論文のプラークレートはO'Leary以外のオリジナルの物として解釈したほうが良さそうです。

もちろんそれでも変化量としては状況を伝えていますが、その観点でも部分床義歯群のみがプラークコントロールが悪化しているのが見られます。我々歯周病医が見る場合、部分床義歯があろうとなかろうとプラークコントロールの水準は一貫して低い値を維持していないと、再現性のある歯周病治療にはなっていないと解釈しますので、診療科での考え方の違いが現れているところだと感じました。


参考になる論文は以上となります。私なりの解釈としては、部分床義歯は口腔衛生状態の維持が困難になる傾向をもつ治療法で、それが悪影響を与える可能性はありうると解釈しました。

その上で口腔衛生状態を良好に維持した場合、その他の選択肢と比較して義歯自体の歯への負担などが悪影響をもたらすかという観点では、あまりはっきりとしていないと感じました。

これは部分床義歯を選択するうえで、口腔衛生状態について十分に配慮した上で行えば、必ずしも歯の喪失リスクを上げるわけではない、という解釈でもあります。

一方で今回の文献は全て少数歯欠損でした。バーティカルストップを喪失した多数歯欠損でどうなるかは不明です。しかしそれを研究するためには、ブリッジも短縮歯列弓も選択不可能なので、インプラントと比較する必要が生じるかもしれません。果たしてそれが意味があることなのか、ランダム割付が可能なのか、おそらく研究のハードルは高いものとなるでしょう。

だれか全文読めなかった論文くれたらもっと深く分析できるんだけどw
(緊急事態宣言で大学にいけない)