短縮歯列第二弾。
前回は補綴系の論文から入ったのですが、勉強会で取り扱った文献の孫引きで出会った、歯周病系のトラディショナルな文献からも少し案を貰おうと思います。
The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults. Results after 30 years of maintenance.
Axelsson P, et al. J Clin Periodontol. 2004.
Axelsson P, et al. J Clin Periodontol. 2004.
実験系:スウェーデンの大学病院、フォローアップ研究、30年間
母集団:1971-1972に歯周外科治療を含む専門的歯周病治療を受けた550人
母集団:1971-1972に歯周外科治療を含む専門的歯周病治療を受けた550人
介入法:ベースライン時の検査後、来院順に3人に2人をリコール群(375人)、1人を対照群群(180人)に群分けした。リコール群は最初の2年間は2か月毎、3-6年目は3か月毎に、その後は必要に応じて3,6,12か月の間隔で[プラーク染色・機械的歯面清掃]を行った。対照群は歯周組織の状態および口腔衛生の重要性を記した文書とともに紹介元に戻した。対照群は6年目の時点で追跡終了しており、その結果は別の論文に示されている(Axelsson, 1981)。
評価法:歯数,口腔衛生状態,虫歯
結果等:リコール群のうち257人が最終検査を受けた。30年間で173歯が脱落した。これは1人につき0.67本の喪失で、全歯数の2.6%に該当する。
留意点:結果には年齢区分で解析されており、実験開始時で51-65才の群はスタート時点の条件が悪く、脱落率も多い。
留意点:結果には年齢区分で解析されており、実験開始時で51-65才の群はスタート時点の条件が悪く、脱落率も多い。
筆頭著者アクセルソン、ラストオーサーでリンデという、歯周病分野のレジェンドが出した30年間フォローアップ研究「最終版」。
群分けでの結果は下図の通りで、治療開始時は70%程度のPCR(歯みがきスコアで高値ほど状態が悪い)からスタートしています。1970年代から開始された研究ですが、重度歯周病患者の治療開始時のPCRは2021年現在も同じようなものです。
リコール群においてはPCRは10-20%に維持されていることがわかります。これは現在の歯周病治療においても目指すべきところですが、私などはSRP時などではこの水準に到達しますが、SPT時では20-30%になってしまっています。アカンですね。
この研究では紹介元(歯周病専門医ではない)でのリコールにおいて、2年後で既にPCRは60%に後戻りしていることがわかります。50%超えていると虫歯も歯周病もなにが起こってもおかしくないレベルですね。
この研究では紹介元(歯周病専門医ではない)でのリコールにおいて、2年後で既にPCRは60%に後戻りしていることがわかります。50%超えていると虫歯も歯周病もなにが起こってもおかしくないレベルですね。
同様の研究は近年もなされており、Ravald 2012では専門的歯周治療後、一般開業医に戻して11-14年間メンテナンスを行った場合、PCRはメンテナンス開始時に23%だったものが、最終検査時39%まで後戻りしていました。
口腔衛生水準は1970年代から比較すると2000年代でも著しく向上したはずですが、専門医および直接指示を受ける衛生士から離れると後戻りするリスクが高いことがわかりました。
この時全歯数の14%が喪失し、そのうち77%の歯の喪失が27%の患者に集中していたことがわかりました。また一般開業医でのメンテナンスは多いほうが歯の喪失と相関しており、これは状態の悪い患者の来院回数を増やしたが、十分なコントロールができていないことを示しています。Axelssonらが30年間のメインテナンスで歯の喪失が2.6%だったのに比較すると、大きな差が現れています。
Axelsson 1981では6年間専門医によるPCR = 20%を維持したメインテナンスでの歯の喪失は1.0%、紹介元でのPCR = 60%に後戻りしたメインテナンスでの歯の喪失は3.9%でした。
これらから分かるのは歯周病専門医と一般開業医のメンテナンスの違いは、いかに口腔衛生状態の維持にコミットしているかであり、来院のたびにプラーク染色液でPCRを測定しないと意味ないし、PCR = 20% 程度を維持しないと再発しても何ら不思議ではないという事かと思います。
ただ手前味噌ではありますが、PCR = 20%を維持するというのは歯科医と衛生士のチームビルドが十分でなければ実現不可能であり、一朝一夕にできることではありません。
歯科ー歯科連携の考えでは、専門的歯周病治療がおわったらメンテナンスは専門医の申し伝えのもと一般開業医で行う、という形になります。しかし一般開業医でPCR = 20%前後を堅持できる体制になっていないと、戻すことにリスクが生じる可能性があります。
さて話題は短縮歯列から逸れましたが、結果のうち高齢グループ、スタート時点で51-65才の群の平均指数が20本で、これが短縮歯列の歯数を早期させます。
高齢グループ24人の歯の総数は逆算にて482.4本で、そのうち43本が喪失しました。つまり全歯数の9%が喪失しています。
30年経過時点の高齢グループのPCRは20-30%のレンジに収まっており、他のグループと遜色ありません。年齢という変数もあるかもしれませんが、残存歯数は歯の喪失に対して関連している可能性があります。
たとえばLang&Tonetti, 2003では歯周病のリスクアセスメントとして、歯肉出血・5mm
以上の歯周ポケット・喪失歯数・年齢対骨量・全身疾患・喫煙を挙げています。
このアセスメントは智歯を除外し、喪失歯数8歯を上回るとハイリスクと分類されます。
つまり残存歯数20歯未満の場合はハイリスクであると言い換えることもできます。
ただしこれを短縮歯列に落とし込むと、Lang&Tonettiのリスクアセスメントは歯種を指定しておらず、義歯を使っているかどうかも言及されていないので、直接的な関係性は薄いと考えられます。
一方でこのアセスメントの文中にはWitterやKayserなど、短縮歯列分野での主要な研究者の名前も挙がっており、短縮歯列に関する先行論文を熟知した上で記述されたと考えてよさそうです。