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2020年12月26日土曜日

医療崩壊は医師の怠慢か(2) 緻密な連携と患者の期待

(承前)医療崩壊は医師の怠慢(1) 現場と経営者の乖離 

医療緊急事態宣言の原因は、医療体制の柔軟性の無さだと書きましたが、しかし実際にやろうとすると簡単ではありません。

24時間シフト体制を組み、それぞれの仕事を十分に理解したスタッフが、役割分担と密な連携をする。スタッフそれぞれは日頃よりコミュニケーションを深めていて、わずかなほころびが感染症対策全体の瓦解に繋がる。そういう現場です。

そこに頭数だけ揃えて看護師や医師が来ても困る、というのが正直なところだと思います。皆さんも自分たちの職場の連携体制が強固であればあるほど、一度に大勢の新人を押し付けられてもかえって職務に支障を来すという懸念を実感できるのではないかと思います。


しかし、上記は平時の医療体制であって、緊急時は感染症対策チームのスタッフがリーダーシップをとって体制を拡大し、落ち着いたら縮小する、ということをしなくてはなりません。

残念ながら緊急時に体制を拡大するという想定はこれまでされてきておらず、援軍の戦力化に関するノウハウは全くありません。今までは固定した人員の中で、より強固で厳密な体制を作っていくことだけを追求してきました。これが日本における医療崩壊の実体です。


その背景には2つあります。

1つは日本の人材流動化が乏しいこと。長期雇用関係におけるスキル醸成を前提にシステムが組まれ、一つ一つのオペレーションに対する要求度が高いことです。

私などのように地元のクリニック経営であれば、夕方に出勤する高校生のアルバイトを即戦力にするために常日頃から準備をしています。

しかし感染症病棟というのはもともと高いスキルをもった精鋭部隊なので、そこにどんな経歴かもわからない医師や看護師が来ても、任せて良い業務は極めて限定的だ、と感じることでしょう。

例えば今後パンデミックが起こった場合、病院等施設が離職中の看護職員を雇用しない理由として、「潜在看護職員の知識・技術の程度がわからない」を53.9%、「感染拡大下では教育・研修の 余裕がない」を46.9%があげています。

(参考)看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査」 ー 日本看護協会(2020年12月22日)


もう1つは国民からの医師への期待です。

医療は完璧に遂行されて当たり前のもの。感染の漏洩などあってはならない不祥事で、そのような医療施設は廃業して当然、関わった医師はその汚名を永久に被るもの。

このように思われては、「新人を入れて手伝ってもらおう」という余裕はありません。世の中がセンシティブになっている新型コロナに関してはなおさらです。

医師もそれはよくわかっていて、「そのような医療を患者は望んでいるのか」と問い返してきます。

結果、精鋭部隊の孤軍奮闘が続き、それが医療緊急事態宣言に繋がった、ということは国民の側も認識しなくてはなりません。


以上2点踏まえた上で、医療体制の柔軟化は今後に備えて考え、制度化していく必要があるのではないでしょうか。

応援にきたボランティアに何をやらせるか、コアスタッフはどこに配置すればよいか。何人までのボランティア受け入れなら、医療クオリティを維持できるか。ボランティアが引き起こした医療事故の責任はだれがとるのか。

医院内のリスト作りだけでなく、法整備や、国民の理解も必要なテーマではないかと考えております。