4月からの保険点数改定で歯科医科連携はさらに強化されました。
術後の口腔ケアなどが頭頚部癌手術後の肺炎を抑えるなどというデータも出ており、周術期口腔管理は歯科医師の重要なミッションになってくると思います。
クリニックにかかりつけ歯科医として継続的な口腔管理を求められているのは明らかです。今回の点数改正では歯科疾患管理料の算定基準緩和などから、行政側のメッセージは明確です。
そうであるならば、このような照会があった場合どのような返事をするのが望ましいか。他科の考えなどにアンテナをはっていくのは重要なことと思います。
私が周術期口腔管理を受け取ってよく見かけるのは、動揺している歯に関して気管挿管の際に抜けてしまうのが怖いという麻酔医の意見です。
気管挿管の作業中ということはすなわち意識は消失しており、喉頭を空けている状態なので、抜けた歯はそのまま肺に滑落していきます。回収は外科手術を伴うことになり、重要な論点であると認識しています。
大前提として保存不可能な歯については、手術の感染コントロールの観点からもあらかじめ抜歯していくのが望ましいことです。しかしそのような状態でも抜かずに温存しているのにはそれなりの患者の想いがこもっていることも多く…。
歯科医師にとって、気管挿管は臨床研修で模型でトレーニングした内容です。
この揺れ方は気管挿管時に抜けてしまうリスクが高いのか、この程度なら意外と抜けないよと言えるのか、臨床歯科医の肌観をもって回答できるといいのではと思います。
さて医科歯科連携は強化されていますが、まったく進んでない分野が歯科歯科連携です。
歯科は単科という見方も一理あますが、矯正治療やインプラント治療をはじめ歯科の中でも専門分野があります。
特に難易度の高い根管治療や義歯補綴、当然のこととして歯周病治療など、ベーシックな部分は全歯科医師が担当しつつも、専門性がないと問題解決に至れない部分も確実に存在します。
それは歯科医師内でも十分認識しているのに歯科医と歯科医の間の連携が進まず、なかなか治療効果のでないまま患者の抱え込みなどに繋がってしまうのはなぜでしょうか。
1、連携のルール作りが不十分
例えば矯正治療や智歯抜歯などというものは、必要な部分に関して専門医や二次医療機関を紹介し、治療が完了したら元の歯科医院に戻るというルールがしっかりできています。
私も一次医療機関(地元のクリニック)から紹介を受ける側である二次医療機関(大学病院)で診療していた経験としては、紹介状で依頼された内容以外は一次医療機関に無断で手を付けてはならず、治療完了したら必ず元の歯科医院に戻すというルールが徹底されていました。
このことを知っているし、立地的にもそんなに遠くないので、私は必要性を感じたら比較的気軽に大学病院への紹介を提案しています。
それは治療が終わったら自分のクリニックに患者さんを戻すのがわかっているからです。
これがあるクリニックが、専門性のある近所のクリニックに紹介するとなると心理的ハードルはかなり高くなります。
開業歯科医全員がわかっていることとして、歯科医院に初めて入るときのハードルが高く、一度いってしまえば同じ歯科医院にはいきやすくなるというのが人間の心理です。
この心理が働くからある程度きちんと対応すればかかりつけの歯科医院として一定の顧客を持つことができます。
これは美容院・理髪店などでも同様で、歯科医師というのが専門性よりも属人的な縁故で選ばれているというのは事実だと思います。
そんな中で、近所の、しかも専門性のある歯科医院に紹介するというのは、やはりハードルの高いことだと思います。
紹介先が一次医療機関ということであれば、紹介状がなければ初診・再診料が高くなるなどといった負のインセンティブもありません。(二次医療機関=大学病院はそれがあるということです)
2、ルールだけでは人間心理はどうにもならない
以上から、たとえば現在掲示可能な専門医の適用を拡大して、専門医に対して診療情報提供に関する保険点数を付与し、専門医側も治療終了後にもとのクリニックに戻すようインセンティブをつけるということはできるでしょう。
参考:医療に関する広告が可能となった医師などの専門性に関する資格名などについてー厚労省
https://www.mhlw.go.jp/topics/2013/05/tp0531-1.html
しかし、患者が自発的に紹介先のクリニックに定着してしまうのは防げないため、そのような仕組みを導入してもどの程度実効性があるか難しい部分だと思います。
そんなこと言わずに患者第一でいきましょうよ、という掛け声はもちろんのことですが、事前に起こりうるトラブルを想定してしっかり仕組みを作るのは重要だと思います。
何かいいアイデアがあればいいのですが…
知恵の出しどころだと思っています。