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2019年6月15日土曜日

急に増えた口腔癌検診 歯科医院の正しい対応とは

最近、口腔癌を心配して来院する患者さんが明らかに増えています。
ある芸能人の方にステージ4の口腔癌が発覚したというニュースは非常に反響が大きく、彼/彼女らの担っている社会的役割は大きいのだなと感じました。

一連の出来事は患者さんに対しても、気になったらまず見てもらうという注意喚起にもなったと感じます。

さらに、歯科医師側もそういう患者さんに対してどう対応していくか考える、いいきっかけになりました。



川口市では検診事業として口腔癌検診を2018年から実施しております。
施行されてから半年ほどで2名の口腔癌が発見されてました。

また口腔癌でないその他の粘膜疾患についてデータはありませんが、
それなりに大勢の方が粘膜疾患に関するアドバイスや、
高次医療機関への紹介があったものと思われます。



この記事では、
1、口腔癌か心配になったときにすること
2、受診後の展開について当院の例をあげて説明
3、医療制度とその他のTips
を紹介いたします。



(この記事は2019年3月7日に書きました。
行政制度や研究成果は常に見直されることをご留意ください。





1、口腔癌かな、と心配になったら


既に言われているように、まずは受診しやすい/行きつけの歯科医院か耳鼻科、内科に相談しましょう。
歯に近い部位なら歯科医、舌や喉に近い部位なら耳鼻科のほうがよりよいと思います。



最初からどこに行くのが正しいのかというのは、診断能力がないと難しいでしょう。
診断は医師/歯科医師がするもので、近所の診療所(一次医療機関)は正しい医療にアクセスするための入り口だと思ってください。

治療をするかどうか決めるだけではなく、不安なことに耳を傾け、医学的にどういう解決方法があるか一緒に考えるのも診療所(一次医療機関)の役割です。



そうすると検査の上で説明があると思いますので、もし説明に納得した場合はドクターの指示に従っていきましょう。



もしも説明に納得がいかない場合は、高次医療機関にアクセスすることができます。
高次医療機関とは、総合病院や大学病院といった、簡単には治らない疾患に対応するために機械・ノウハウをため込んでいるところです。
ここでの精密検査や専門家による判断を受けるために、紹介状を書いてもらうよう患者から申し出てもいいと考えています。



ではなぜ最初から高次医療機関(総合病院・大学病院・癌センター)を受けるのが適切でないかというと、
これらの医療機関は待ち時間が長かったり、少し遠かったりするからです。

また各医療機関で特色があり、内部事情まで普通はわかりません。
わざわざ遠くまで行ったのに、扱っていない分野だったり、近所の診療所でも治せるものだとすると、患者さん自身の労力がもったいないです。



近所の診療所(一次医療機関)を一つ目の足掛かりとして、病院(高次医療機関)につなげるというのは、国の決めた医療制度にも合致しており、合理的です。





2、受診のあとはどうなる。当院の例


当院(一次医療機関)での対応例です。
幸い現時点で口腔癌だったケースはありませんが、それ以上に粘膜疾患の相談を受けることが多く、参考になると思うので掲載します。

いずれも「癌だと心配だから」との発言がどこかのタイミングであったものです。



A、20代女性 下顎臼歯部に2か月ほど続く痛みと腫れ

→ある程度予想はついてたが、レントゲンにて埋伏している親知らずの炎症と確定。

→難抜歯依頼で市立医療センター口腔外科に紹介。



B、70代女性 下口唇に1年前からプツプツができる。複数の総合病院口腔外科を受診したが解決せず

→総合病院口腔外科で軽度の慢性粘膜疾患をじっくり対応するのは難しいだろうと判断。
また、ここまでの総合病院の対応を踏まえて感染症の可能性も排除。
ただし明確な病名は特定しづらい状況。

→口腔乾燥症と多発性口内炎で歯科大学口腔外科へ依頼。
検査結果に応じて適切な診療科に振るよう対診書にて指示。
口腔乾燥症だからリハビリ科か最後までまよったが、口腔外科を二段階目のハブに設定することとした。



C、50代女性 二か月前から舌尖にピリピリ感麻痺感味覚障害。内科で胃カメラ・血液検査で異常なし

→症状は明確だが軽微で、急速な進行もないため慢性的なものだろうと判断。
感覚的なものもふまえてゆっくり対応してくれるところが良い。
病名は当医院では特定不可能。

→舌炎疑い病名で歯科大学麻酔科ペインクリニックへ依頼



D、80代女性 半年前から舌が赤くなって痛い。複数の二次医療機関をドクターショッピング

→状態的には地図状舌。これまでの対応を聞く限りでは自己免疫疾患の類だろうと推察。
持病として長期的な経過観察と対症療法が必要なのだが、患者が短期的な解決ができると考えていいる点ですれ違いが生じている。

→短期的解決が不可能で、対症療法に専念することに合理性があることをしっかり説明。
話を聞く中でもっとも親身に見てくれそうな市立病院耳鼻科に、担当医が色々と動きやすくなるよう配慮して対診書を記入。
あわせて歯科的な見解について共有し、連携してみていく関係を構築。

→たびたび不安になって再来院するが、しっかり経過を追っていることとを確認。
病状の明らかな変化がないことを歯科医師としてしっかりダブルチェックしたうえで、耳鼻科医の対応を現状では支持する説明。
ドクターショッピングは落ち着き、継続管理下で症状もコントロールでき軽症化している。



E、その他、前癌病変なら市立病院口腔外科、明確に進行中の癌なら大学病院口腔外科に紹介するつもりです。
癌センターは順番待ちをしている間にステージが進行してしまったというケースを知っているので、私からは紹介せず口腔外科の判断に任せるスタンスをとっています。(癌の特性に応じた適切な設備で、なるはやで出来るところを案内してくれるはずです)





3、よりよい医療制度を目指して


このように、一人ひとりしっかり話を聞いて、一番きちんと見てくれそうな紹介先までコーディネートするのが一次医療機関の役割かと思います。



最近よく使う言葉は、「まずは情報共有しましょう」です。
これをいうと、こちらの誘導にしたがって時系列でしっかり病歴・受診歴を話してもらえます。



患者さんも、病状を科学的に分析するためには、症状の「物語」をしっかり聴取する必要があることをご理解・ご協力いただけると幸いです。

これらの情報は分かりやすいよう紹介状にまとめて医師間で情報共有します。
記載した内容については、患者本人に口頭で説明し、記載内容に間違いがないか、どういう目的で紹介するのかダブルチェックしてもらっています。



この度のニュースに関して、診療所には高次医療機関への紹介制度をきちんと構築するよう求められる時代かと思います。

私たちも紹介先については常にどこがベストかアンテナを張らなければならないと感じます。



患者さんが「たらいまわしにされた」と感じない、上質な紹介ができるよう、今後も努力してまいります。




東川口の歯医者・歯学博士・歯周病認定医
中田 智之

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