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2022年7月20日水曜日

私がおもう「気軽にできる」マウスピース矯正の限界

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。

ヤマト運輸も参入し、マウスピース矯正の認知がどんどん広まっています。矯正の師匠がいっていた「矯正医がどう思おうと普及は進む」その通りだと思います。

ただしメーカーがどれだけ気軽さを訴えようとも、歯科矯正は非常に専門性の高い医療行為。わたしも歯科医師として免許を頂いたからには矯正にも挑戦してみたかったので、抜歯有りのストレートワイヤーテクニック含めて色々挑戦してきました。

しかしマウスピースでもワイヤーでも計画どおり治るかの心理的負担は大きく、現在は主訴が矯正である患者の新規受付はしていません

わたしが色々挑戦した知見は、もともとむし歯や歯周病が原因で抜歯が必要になった患者さんでたまたま条件が合致する場合に矯正治療で治療完了にもっていくとか、極めて軽症な前歯部の不整に対しマウスピース矯正で解決する等といった、診療の幅につなげる技術として今は活用しています。



さて今回はメーカーも私も「非抜歯マウスピース矯正の限界」だと話し合い、なんとかうまくいった症例をお見せします。マウスピース矯正がどんなものか、どの程度の歯列不整なら解決できるか知りたい方のご参考になれば幸いです。

なお患者さんからは掲載許可を頂いております。


私はいまでも「臼歯部の咬合が安定し変更の必要がなく、前歯隣接面の切削(IPR)だけで歯を並べるスペース確保ができるケース」に限り、ある程度の知識に基づいて一般開業医が実施するのはアリだと考えています。

その理由はかかりつけ歯科医としての相談のしやすさや、アクセスのしやすさ、料金に関して、アライナー矯正に対するスタンスなど様々に考えられると思います。

さてこちらのケース一目見て抜歯も十分検討すべきケースだと思いましたが、患者はマウスピース矯正を希望していました。写真の通り著しくプラークコントロール不良で、このままだとむし歯か歯周病で全滅してしまうリスクがありました。

「マウスピース矯正じゃなければ矯正はやらない」という雰囲気がでていたので、将来的なリスクを重く見て歯医者に通院するキッカケになればとマウスピース矯正をお請けすることとしました。その際、治療開始時に望ましい結果が得られず矯正専門科へ転院となる可能性があると説明し同意を得ています。

治療開始後まずセルフケア改善の動機付けとして現在のプラークコントロールレベルのままマウスピース矯正を行った場合、矯正治療中に装置が原因でむし歯になる可能性が高いこと。せっかく費用をかけて歯並びを良くしても、むし歯になってしまったら審美性は損なわれることを説明し、ブラッシングの仕方・フッ化物の活用法・食習慣指導の3要素を中心に段階的にレクチャーました。


結果的に数回の来院でプラークコントロールは大幅に改善し、約束通りマウスピース矯正へと進んでいきました。

個人的な経験でエビデンスはないのですが、歯列不整がコンプレックスになっているとその部位を大切にするという意識が減じてしまい、セルフケアがおろそかになりがちなのではと感じることがあります。

もちろん歯列不整の状態でもプラークコントロールは改善しますが、矯正治療等で歯列が整うと患者さん自身のモチベーションの上がり方に驚かされることがしばしばあります。



今回のケースは患者さんのセルフケアを改善するために通院してもらいたかったので、ややチャレンジ的なマウスピース矯正を行いました。

この程度の歯列不整の場合抜歯ケースと説明されてもおかしくないですし、抜歯する以上はワイヤー矯正のほうが治療期間も短く仕上がりも良好である場合が多いです。

もしマウスピース矯正は気軽というイメージをもっているならば、このケースのように奥歯の咬み合わせが正常で、前歯の歯列不整は本ケースより軽症という最低限2つの要素を満たしている場合に限ると思います。

またそうであったとしても、歯科医師がほとんど関与しない「セルフ矯正」「DIY矯正」などは責任の所在が不明瞭であるという観点から推奨しません。安い料金は品質保証とアフターケアを省くことで成立するものと捉え、十分な検討をしていただきたく思います。

もちろんインビザライン社を中心に抜歯ケースを含めあらゆる歯列不整をマウスピース矯正で治療しようと挑戦し続けているメーカー・歯科医師はいますが、未だにその工程は複雑怪奇で個人技のなせる”アート”であり、普及段階ではないように思います。

以下にわたしが企画・監修させてただいたフライデー記事と、信頼できる仲間たちがまとめたnote記事のリンクを付記します。併せてご参考になさってください。