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2020年1月29日水曜日

技術革新による原価高騰への回答。CAD/CAM冠保険導入 その1

こんにちは! 東川口の歯医者 中田智之です。



先般はアゴラ記事に多くのご反響をありがとうございました。


さまざまなパターンのエゴサによって全てのリツイート・コメント読ませていただきましたが、概ね共感するといった反応をいただき、ほっと胸をなでおろしているところです。



今回の記事はまったく歯科とは関係なく、ただいち経営者・いち消費者目線で書いたので、私自身かなりの冒険でした。

政治・経済に関しては興味ある分野ですが、高校生の時分から今に至るまで完全理系でキチンとした形ではほぼノー勉の私が、今後専門家ヅラして情報をタレ流すのはあまりに違和感があります。生兵法は怪我のもとともいいますし。



そういうわけで、今後は政治・経済に言及するにしても何らかの形で専門分野から話題を発展させる、あるいは社会保障や医療行政を中心に取り扱うこととしたいと考えています。


閑話休題(←いつか使ってみたかった)


先日投稿したシュリンクフレーションの記事はツイッター上でも多くシェアされ、世論喚起の一助になったと実感している。


しかしその解決策や今後の展望に関して、前回の記事では字数の都合で一般論に終始することとなった。

今回は私のその一員である歯科業界での事例を挙げて、シュリンクフレーションの解決策を示したいと思う。



歯科業界は皆様にとってなじみのない世界と思うが、規模がそれほど大きくないため、参加するプレーヤーが把握しやすく、原価高騰、価格転嫁、新技術への置き換え、補助金の推移を把握しやすいモデルであると捉えることができる。

これをそれぞれの業界のプレーヤーに置き換えて読むことは可能ではないかと考えている。



今回扱うのはCAD/CAM冠という2017年12月に保険適応となった被せ物で、従来銀歯しか保険適応できなかった大臼歯に対して要件は限られるが天然歯に近い色で歯冠修復できる新しい方法だ。


(参考)大臼歯CAD/CAM冠 - 日本補綴歯科学会
http://hotetsu.com/files/files_244.pdf


この患者さん(消費者)にとって付加価値の高い治療法が保険導入(普及)された背景には、銀歯の材料である金銀パラジウム合金(原材料)の高騰が背景にあった。




1、金属価格高騰による現場の圧迫

金銀パラジウム合金は1961年の国民皆保険制度とともに保険適応の銀歯の材料として採用された。

今でも物性的に理想的には金(14K-18K)で被せ物を作るのが理想だが、財源の制約があった。当時パラジウムは安価で、金の劣化しない等といった優れた物性を維持したままカサ増しするのに最適だった。



しかし近年パラジウムの需要は高まり価格は高騰している。歯科用金銀パラジウム合金の商品キャストウェル(30g)の販売価格は2015年1月は35,000円だったのが、2020年1月は75,000円となっている。


(参考)パラジウムが二倍以上に急騰した理由
https://www.fuji-ft.co.jp/climb/climb190202


(参考)チャートギャラリー 目で見る相場
https://www.dai-ichi.co.jp/gallery/


いまやパラジウム価格は金価格に迫っており、カサ増しとしての意義はなくなってしまった。保険制度が無ければ金銀パラジウム合金と18Kゴールドとの価格差は無いので、臨床的に利点の多い18Kゴールドを採用するかもしれない。



しかし金銀パラジウム合金の60年に及ぶ実績は強固で、早晩保険から外れることもない。長年の信頼によるブランド力があると言っていいだろう。



一方で価格の高騰は歯科医院経営を圧迫し、利益率の低下や、技工料の値下げ圧力という形で現場を苦しめていた

今後さらに値上がりする可能性のある原材料によって社会保険財政をも圧迫する可能性があり、持続可能とは言えない状況となっていた。



(続く)